フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第11話>

2014-07-14 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,028 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

フィスト

 

<11回目>

 

バッグから財布を取り出し、6枚のお札を入れている時、さっきから聞こえている歌声が気になって外に目をやった。

 

朝の新宿西口で一人ギターをかき鳴らすストリートミュージシャン。ぱらぱらと行きかう人たちは、見事に素通りしていく。夜ならストリートミュージシャンはこのへんでちょくちょく見るけれど、朝は珍しい。

 

「最近よくいるんですよ、あの人。時々移動して、いろんなとこでやってるみたいです。前は渋谷でも見たし、やっぱり朝に」

 

「へー」

 

いつのまにか、冨永さんも彼のことを見ている。

 

空気も凍りそうな1月の都会で、彼の歌は新宿の西口ロータリーによく響いていた。耳に入ってくるフレーズは、大量生産のJ-POPを切って貼って繋ぎ合わせたようなものだったけれど、メロディがちょっと独特だ。

 

「たぶんオリジナルです。よく聞いてると、けっこう上手いんですよ」

 

「ふーん?」

 

「えらいですよねー、こんな寒い中」

 

「でも、こんな朝からやってたって、誰も聴いてないでしょ。何がしたいんだか」

 

「もしかしたらあの人、悪の組織の一員かもしれませんね。歌詞が暗号になってるとか」

 

「冨永さん。そういうのつまんないし、オヤジくさい」

 

「オヤジ! そう来ましたか。しょうがないですね、本当のことですからね」

 

冨永さんと話しているとつい盛り上がってしまう。冗談ばっかりで、中身は空っぽの会話に癒されるのは、実は寂しいからなのかもしれない。

 

今度こそ本当のお疲れ様を言って車を出た。

 

一歩歩みを進めるごとに、ストリートミュージシャンの彼に近づいていく。年齢は24歳か25歳くらい? あたしと同じくらいだろうか。

 

やや色が黒すぎる他は整った顔をしている。ホスト風の白くてひょろひょろした男は好みじゃないし、マッチョ過ぎるのも嫌。男らしく意志の強そうな顔立ちは、なかなかあたしのタイプだ。

 

思考が妙な方向にいってるのに気が付いて慌てて俯く。

 

彼の目の前を通り過ぎる瞬間、横顔に視線を感じた。気のせいかもしれないけれど、落ち着かなくなって足を動かすテンポが速まった。

 

 

 

 




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