泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第37話>

2015-04-25 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,121 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第37話>

 

『もしもし』

 

大好きな声が聞けた時は、心底ほっとした。

 

今夜7回目の電話でようやくハルくんは出てくれた。いつもとちっとも変わらない響きが甘く耳をくすぐる。

 

 

「ごめんね、仕事の後の報告、遅くなっちゃった」

 

 

『あー! そういえば今日、園香仕事だったよな。悪ィ、忘れてた。こっちこそごめんな、すぐ電話、かけ直せなくて』

 

 

「うん……。あのね、わたし、見たよ」

 

ハルくんみたいにいつも通りでいようと思ったけれど、無理だった。どうしても喉が引きつって声が裏返る。

 

 

『ん、見たって?』

 

「さっき、ハルくんお店の近くにいたでしょ。女の子と一緒で」

 

『あー、はいはい。あれ、妹』

 

「妹……?」

 

予想外の答えだった。

 

電波の向こうでハルくんはケタケタ笑いながら言う。

 

『今、こっちに遊びに来ててさー。今夜は行きたいイタリア料理の店があって前から予約してて、友だちと行くはずだったんだけどキャンセルされて。どうしても付き合ってほしいなんて言われてさ、参ったよー。女の子に人気のある店でさ、店内に男、俺だけなの!』

 

「へぇ。そうだったんだ」

 

すらすら出てくる言葉。まるで、前もって用意してあったように。

 

あの子とハルくんと、2人とも美男美女だけど、似てるところは少しもない。

 

数時間前のわたしだったら、ハルくんの言うことを素直に信じていただろう。悔しいことに、桃花とリミに植えつけられた疑いの種は、胸の奥で発芽してぐんぐん育っていた。

 

「妹さん来てるんだったら、教えてくればよかったのに」

 

『今度紹介するよ! 彼女ができたって言ったら、あいつ、喜ぶぜぇ』

 

「そんな。わたしなんかじゃ、嬉しくないよ。もっときれいな人だったらよかったのに、なんて思われちゃいそう」

 

『何言ってんだよー。園香は十分、キレーじゃん!!』

 

いつもと全然違わない穏やかな会話が数分続いた後、廊下を通り過ぎる家族の足音が気になって、自分から別れを告げた。

 

電話を切った後の沈黙はしっとり濃くて、静けさは疑いも寂しさも増幅させる。しびれを切らしたお母さんが部屋までやってきて、ノックもせずに早くお風呂に入れと急かす。

 

すっかりぬるくなったお湯の中で膝を抱えながら、自分を励ます。

 

大丈夫、似てないきょうだいなんていくらでもいる。わたしと美月だって、あんまり似てないし。

 

信じよう、じゃなくて、信じなきゃダメだ。

 

この幸せは絶対、手放したくない。

 




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