Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第1話>
<第1話>
この仕事を始めた時から、いつかは来るとわかっていたことだった。わかっていて、現実から目を背け続けていた。
現実なんて思い通りにならないことの集合体で、正面からまともに見つめたら苦しくなるだけ。逃げるくらいでちょうどいいんだと。
「はっ? 店を辞めろって?」
声が裏返った。
セックスの後の、皺が寄ったベッドの中、腕枕されながら富樫さんの横顔を見上げる。富樫さんはタバコの灰を落としながら、いつもと同じけだるそうな顔をしていた。
この人は店にいる時もあたしと会ってる時も、反抗期の子どもがそのまま大人になってしまったような、重たい拒絶感を含んだ目で世界を見る。
最初はこの、何を考えているかわからない目に惹かれたんだっけ。
「辞めるんじゃない、系列店に移ってもらうだけだよ」
「それ、同じじゃん」
「清美も知ってるだろう? うちは基本、22歳までなんだ」
「ちあきさんは24歳までいたじゃない」
あたしの前のナンバーワンだったちあきさん。あたしと同じで胸が大きくて、でもあたしと違ってほっそりしてて、ぽってりした唇も常に男に媚びているような目つきも、がっつり客のハートを掴んでいた。店を辞めたのは2年前だから、今は26歳になってるはずだ。
「覚えてないのか? ちあきさんの最後、悲惨だったろう。売り上げが落ちちゃって」
「覚えてるけど……」
若いロリ系の子を集めているのがウリの店だから、制服が似合わなくなってしまったら、もういられない。客にオバサンと言われ、休憩室の端っこで泣いていたちあきさんの姿を思い出す。
ちあきさんにはひどいけれど、実際、あの人は24歳よりもだいぶ老けて見えた。ほうれい線の深さからすると、28~29歳ぐらい。この仕事をしている女の子は、老けるのが早いのかもしれない。日々、若さと美貌を切り売りしているうちに、このふたつの宝物はどんどん磨り減っていく。
逃げるように系列のソープに移ったちあきさんが、今どうなっているのかなんて、考えたくもなかった。
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