Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第5話>
<第5話>
「何それ。あたし、闇金から借金なんかしてないし」
「違う違う、闇金じゃなくて病み期。ヤ・ミ・キ。この仕事してる女の子ってほら、いろいろ背負ってる子が多いでしょう? それで、どうしても病んじゃう。欝になったり、拒食になったり、眠れなくなったり」
自然と、視線が香耶のセーラー服の腕に行く。
香耶は真夏でも絶対、重たい長袖のセーラー服しか着ない。何よりもその傷を恥じているかのように。自分で切ったくせして。
だいぶ前だけど、無神経なあたしは香耶の傷について鋭く突っ込んだことがある。
その時香耶は、手首を切っていた過去と、手首を切ることにまつわる苦しい思い出を話してくれた。今みたいに悲しそうに笑いながら、泣きそうに目を潤ませながら。
—————今は、もうしてない。中学と高校の頃、ハマっちゃってた。一度やりだすと止まらなくなって、ひと晩で腕がすごいことになっちゃったりして……。
記憶の中の香耶と、目の前の香耶とが重なる。
香耶の優しさは他人に向けたものじゃない。ただひたすら、自分を守るためのものだ。
「それにやっぱり、こんな仕事、まともじゃないもの。身体を売るのがいいか悪いかはわかんないけれど、こういう人に言えないようなこと、いつまでも続けてられないでしょ? だからって抜け出そうとしても、上手くいかないし」
「……みんな、そんなこと考えてたの?」
つい、何度かパチパチとまばたきしてしまった。
たしかに人に言えない仕事ではあるけれど、あたしは自分の仕事がこんなんだからって、病んだことはない。香耶が苦笑する。
「そりゃ、りさちゃんみたいに入ったばかりの子や、若い子は別よ。でもある程度長くこの仕事続けてたら、やっぱりそういうふうに考えちゃうのよ、誰でも」
「あたしは考えたことない」
「清美はナンバーワンで、人気者で、富樫さんからも大事にされていて。そういう暗い思考が入り込む隙が、今までなかったんでしょ? でも、みんなが清美みたいに、幸せってわけじゃないのよ」
なんだか嫌味っぽい一言だった。病んだことがないのを馬鹿にされているような。病むほどの脳味噌がないんだと見抜かれているような。
実際その通りで、それでもなんとか反論しようとした時、富樫さんが長い身体を邪魔そうに折り曲げながら休憩室に入ってくる。
「まゆみ、一番ボックスね」
「はい」
素早く準備をして香耶は出かけていく。
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