Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第8話>

2014-01-26 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,226 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kiyomi 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE愛人

 

<第8話>

 

「あはは、怒った、怒った。やめてよ、その顔。ちょーコワイ」

「でもさぁ、お姉さん、実際結構いってるよねぇ?」

「お姉さんじゃないだろ、オバサンだって。失礼じゃん」

「オバサンのほうが失礼だしー」

 

4人とも口々好き勝手に言って、身体を揺らして笑う。

 

目の前の男の子たちはみんな、あたしより若く見えた。18歳か19歳ってところで、顔立ちにはまだ十分少年の面影が残ってるし、タバコも似合わない。彼らから見たらたしかに23歳なんてオバサンに決まってる。

 

あんたたちだって、いつかはあたしのトシになるんだ。……そんな理屈はきっとこいつらには通用しない。

 

「……バカにすんなよ」

 

自分のものとは思えない低い声が出た。

 

男の子たちが笑顔を引っ込め、きょとんとあたしを見上げる。一度マジギレしたら、あとは突っ走るだけだ。

 

「あんたら、あしたしのことバカにしてんじゃねぇよ。風俗やってる女だからって、バカにしていいと思ってんのかよ。あたしをバカに出来るぐらいあんたらは偉いのかよ」

「オバサンさぁ、なんか勘違いしてない?」

 

4人の一番右側の、唇に金のピアスを光らせた男が呆れた声を出した。富樫さんがあたしを見るような、哀れみの目が、そこにあった。

 

「バカにすんなって言われてもさぁ、しょうがないよね。自分がバカにされる立場なんだから。風俗嬢なんて所詮社会のゴミみたいなもんなんだよ、男に媚びて金稼いで。ゴミじゃなかったらなんなのさ? 社会のゴミは社会のゴミらしく、おとなしくバカにされてればいいんだよ。ま、俺もこんなこと言えるほど、立派なことしてないんだけどさー」

「おー、言うじゃん」

 

残りの三人がきゃらきゃら笑って、やたら面白そうに手を叩く。

 

足元が崩れて、地面が遠くなって、あたしがものすごいイピードで壊れていった。

 

社会のゴミ、という言葉があたしを囲んでぐるぐる回る。おそろしい魔術にかけられたように、あたしはどんどん力を失って、バラバラになる。

 

「つまんねぇから、もう行こ」

 

唇にピアスの男が言って、四人がぞろぞろと立ち上がった。歩き出す彼らの背中を見ていたら、やっと腹が立ってきた。

 

網膜がスパークして目の前が見えないほどの強烈な怒りが突き上げてきた。

 

「ふざけんなよてめぇ!!」

 

工事現場を囲んでいた虎柄のバーを振り上げた。カラーコーンが一緒に持ち上がってカランと間抜けな音を立てた。

 

びっくりして振り返る男たちに突進し、ライオンみたいな頭たちに何度も何度もバーを振り下ろした。

 

耳が何度か、あたしの周りを漂う声を捕らえた。何やってんだよ、やめろよ、おいやめろ、どうすんだよ、キレてんぞこの女、警察だ警察、キャー、何あれ、誰か人を呼んで、交番交番、お巡りさん……

 

気がついたら、あたしは左右を警察官に取り押さえられながら、夜に向かって獣のような悲鳴を上げていた。

 

 

 




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