Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第8話>
<第8話>
「あはは、怒った、怒った。やめてよ、その顔。ちょーコワイ」
「でもさぁ、お姉さん、実際結構いってるよねぇ?」
「お姉さんじゃないだろ、オバサンだって。失礼じゃん」
「オバサンのほうが失礼だしー」
4人とも口々好き勝手に言って、身体を揺らして笑う。
目の前の男の子たちはみんな、あたしより若く見えた。18歳か19歳ってところで、顔立ちにはまだ十分少年の面影が残ってるし、タバコも似合わない。彼らから見たらたしかに23歳なんてオバサンに決まってる。
あんたたちだって、いつかはあたしのトシになるんだ。……そんな理屈はきっとこいつらには通用しない。
「……バカにすんなよ」
自分のものとは思えない低い声が出た。
男の子たちが笑顔を引っ込め、きょとんとあたしを見上げる。一度マジギレしたら、あとは突っ走るだけだ。
「あんたら、あしたしのことバカにしてんじゃねぇよ。風俗やってる女だからって、バカにしていいと思ってんのかよ。あたしをバカに出来るぐらいあんたらは偉いのかよ」
「オバサンさぁ、なんか勘違いしてない?」
4人の一番右側の、唇に金のピアスを光らせた男が呆れた声を出した。富樫さんがあたしを見るような、哀れみの目が、そこにあった。
「バカにすんなって言われてもさぁ、しょうがないよね。自分がバカにされる立場なんだから。風俗嬢なんて所詮社会のゴミみたいなもんなんだよ、男に媚びて金稼いで。ゴミじゃなかったらなんなのさ? 社会のゴミは社会のゴミらしく、おとなしくバカにされてればいいんだよ。ま、俺もこんなこと言えるほど、立派なことしてないんだけどさー」
「おー、言うじゃん」
残りの三人がきゃらきゃら笑って、やたら面白そうに手を叩く。
足元が崩れて、地面が遠くなって、あたしがものすごいイピードで壊れていった。
社会のゴミ、という言葉があたしを囲んでぐるぐる回る。おそろしい魔術にかけられたように、あたしはどんどん力を失って、バラバラになる。
「つまんねぇから、もう行こ」
唇にピアスの男が言って、四人がぞろぞろと立ち上がった。歩き出す彼らの背中を見ていたら、やっと腹が立ってきた。
網膜がスパークして目の前が見えないほどの強烈な怒りが突き上げてきた。
「ふざけんなよてめぇ!!」
工事現場を囲んでいた虎柄のバーを振り上げた。カラーコーンが一緒に持ち上がってカランと間抜けな音を立てた。
びっくりして振り返る男たちに突進し、ライオンみたいな頭たちに何度も何度もバーを振り下ろした。
耳が何度か、あたしの周りを漂う声を捕らえた。何やってんだよ、やめろよ、おいやめろ、どうすんだよ、キレてんぞこの女、警察だ警察、キャー、何あれ、誰か人を呼んで、交番交番、お巡りさん……
気がついたら、あたしは左右を警察官に取り押さえられながら、夜に向かって獣のような悲鳴を上げていた。
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