Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第9話>
<第9話>
あたしを担当した警察官は、終始あたしに無関心みたいだった。
50歳そこそこの頭の禿げかけたおっさんで、「なんだ風俗嬢か」という目であたしをずっと見ていた。
迎えに来た富樫さんとあたしを座らせ、淡い同情を顔に浮かべつつ、固い声で説教をする。
「たしかにあの男たちにも非があるし、君にもいろいろあるんだろう。それはわかる。でもそれは君だけじゃなくて、みんなそうなんだ。それぞれ、そのいろいろに折り合いをつけて、自分を保って、うまくバランスを取りながら生きている。いろいろ、は何の理由にもならない。社会で生きている以上、社会のルールは守ってもらわないと困るんだよ」
警察署の建物を出てすぐ、富樫さんに殴られた。
4年も付き合っているけれど、殴られたのなんて初めてで、でもそれよりあたしを見下ろす目がやっぱり静かにけだるそうなことに、ショックを覚えた。
「なんで殴んのよ」
「その痛みをちゃんと覚えとけ。そして二度と問題を起こすな。こんなこと、店に知れてみろ。系列店にだって行かせてもらえないぞ」
低い声で言って、あたしに歩調を合わすつもりなんてないように、長い脚でせかせかと歩いていく。
夜はとっぷり更けていて、黒一色に飲み込まれた地上にはあたしのミュールも富樫さんの革靴も、ツンと鋭く反響した。
小走りになって細長い背中にやっと追いついて、ごめんなさいの代わりにこう言った。
「ねぇ。風俗嬢って、社会のゴミなの?」
変わらない表情の奥で、富樫さんは一瞬だけど、ちゃんと考えていたと思う。
「わからない。でもたしかに、清美もそうだけど、うちの店に集まってくるのは表の社会で上手く生きられない子が多いなぁとは思う。それをゴミって言ったらゴミなのかもしれないけれど。真っ当な社会に貢献できないのを、ゴミって言うのならね」
「見ず知らずの男にキスされたりおっぱい触られたりフェラしたり、そんなこと出来ちゃう時点で、普通の神経じゃないもんね」
否定してほしかったのに、富樫さんは何も言わない。こういうところが、たぶん好きなんだ。求めても決してすべてに応じてくれないこと、いつもきれいに自分の思い通りにならないこと、どんなに近くにいても決して手に入った感じのしないこと。
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