フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第15話>
<第15話>
「藍美じゃない?」
暗い思考に埋もれながら機械的に求人情報誌をめくっていると、不意に声をかけられて慌てて顔を上げる。
最初、誰だかわからなかった。
つけ睫毛が目立つアイメイク、丸い形の輪郭、モーブピンクの唇。くるくるにカールさせた髪が肩の上で躍っている。隣にはひょろっと背の高い男の子。
「李香……?」
「わー、やっぱ藍美だ、ちょー久しぶり! マジ卒業以来じゃない!?」
今にもぴょんぴょん飛び跳ねだしそうなテンションの高さ。
見た目は変わってもこの辺りは変わっていない。
李香の隣で所在なさげに愛想笑いを浮かべている男の子と目が合い、互いに小さく顎を動かす。
「彼氏?」
「彼氏! てか、婚約者!」
「マジ!?」
「うん。ごめーん、藍美と話すから先行っててくれるー?」
手をひらひらさせ男の子がドーナツ屋さんを出ていくと、李香は空いていた私の隣のカウンター席に座った。
可愛らしいメイクとか、くるくるカールの髪の毛とか着ているベビーピンクのニットとか、ついじろじろ見てしまう。
李香は変わった。短大時代と比べて格段に垢抜けた。化粧や服装だけじゃなくて、全体的に痩せたみたいだし。
「李香、痩せたよね?」
「痩せた痩せた、短大の頃から8kg痩せた! 藍美もちょっと痩せたよねー?」
「うーん、少しは……。李香はまだ保育士してんの?」
「してるしてる! 藍美はどうよ、OL生活」
言ってから私が握っている求人情報誌に気づき、後悔した顔になる。
会社の業績が傾きリストラされたことを言うと、そっかー藍美も大変なんだねー、と露骨に沈んだ表情を作る。
形ばかりの同情でもすがりたくなってしまう自分が惨めで、話題を変えた。
「てか、どういうことなの? 婚約者って。いつから付き合ってるの?」
「んーと、1年ぐらい前からかなぁ」
「1年……。そんなもんなんだ、付き合い始めてから結婚するまでって。早い気がするけど」
「できちゃった婚だもん」
「嘘っ!?」
李香はまだちっとも膨らんでいない、ベビーピンクのニットに包まれたお腹を誇らしげにさすってみせる。
その向こうに人間がいるのかと思うと、今から李香がその人間をこの世に送り出そうとしているのだと思うと、不思議な気分になった。
「おめでとう」
「ありがとー。ねーね、アドレス交換しようよ! 藍美メアド変えたでしょ? こっちがメアド変えましたメール送っても返ってこないし。このはくじょーもんっ!」
「ごめんごめん、一回携帯水没させちゃって、そん時全部消えちゃってさ」
あーそりゃ仕方ないね、と携帯を取り出す李香。
嘘をついた。
私は李香と離れたかった。
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