フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第23話>
<第23話>
バイブを引き抜かれる。
「わかった、もっともっとすごいの入れてあげる。生でも大丈夫、こっちは妊娠しないからね」
「え、何……?」
何を、と言い終わらないうちに、強烈な不快感と嫌悪感がせりあがってきて、そこで私は初めて暴れた。
さっきのよりずっと熱くて硬くて太い。こんなもの奥まで入れられたら、裂けてしまう。
「嫌、だめっ、ちょっ、マジ無理っ」
「いいじゃん、大丈夫だって。あー、気持ちいい。なっ? るいちゃん」
「本当に嫌!!」
両手でがっしりお尻を抱え込み、奥へ奥へと突き進もうとする客を全力で振り払う。
これ以上進ませたら本当にダメだ、あと3センチ進んだら、あと1センチ進んだら……。泣き叫びながら、腰をよじり、足を振り回した。
「いてッ」
低い声と共に、腰を掴むしめった手とお尻の不快感が消える。
右のかかとが、たしかに客の体のどこかにヒットした感覚があった。
這って進んで、客から離れ、ぜいぜい上下している肩を抱える。赤い間接照明が、ぼんやり光を投げている薄暗い部屋の中、お腹をさすりながら、客が今度こそ本当に閻魔様の顔になっていった。
殴られると思った。蹴られると思った。
実際には、そのどちらもされなかった代わりに、髪の毛を掴んで玄関の外に引きずり出された。一糸まとわぬ体に、冷たい風が容赦なく吹き付ける。荷物と服を投げつけられ、バックのチェーンが当たって額がすぱんと切れた。
放心して、流れる赤いものを見つめていると、罵声が降ってくる。
「ブスのくせに生意気なんだよ、てめぇ。ブスが普通のことだけして稼げるとでも思ってんのか。ケツぐらいおとなしくやらせろよな!」
思い出したように、ローションのボトルとタイマーも投げてよこされる。
まだ数字をカウントダウンしていたいちご型のタイマーが、コンクリートの床に当たった衝撃でピッと音を立て、止まった。
「風俗嬢が、あれダメこれダメとか言ってんじゃねーよ。男に媚びねーと、生きていけねーんだろうが。お前は社会のクズなんだよ。クズはクズらしくケツ突きだせっての」
俯いている私に、客はなおもナイフのような言葉を浴びせ続けていたけれど、エレベーターがチン、と止まるとやっと口をつぐんだ。
そして、まだ、何か言いたそうに、穴が空きそうな鋭さで私を睨みつけてから、ドアを閉めた。乱暴な閉め方で、がちゃんとドアが怒鳴った。
エレベーターから出てきたのは30歳半ばぐらいの背広姿の男の人で、裸で廊下に転がっている私を見て、思いっきり目を見開いたけれど、ちらちら2度見3度見しつつも、絶対に関わるものかとでも言うように、急ぎ足で私の前を通り過ぎていった。
4軒隣のドアが開き、閉まった。
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