フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第24話>
<第24話>
客を怒らせるなんて、仮にもこれが仕事である以上、あっちゃいけない失態だ。
あの人のドリームガールへの評価は地に落ちたはずだしし、店にクレームが行くかもしれない。お金だけは、ちゃんともらって帰ってこられたのが、不幸中の幸い。
それでも店長は優しかった。
「気にすることないよ、るいちゃんは悪くない。いけないのは向こうなんだから。嫌なことは嫌って言っていいんだし、無理は全然する必要ないからね。そうじゃないと、体も心も持たないでしょ。にしても、ひど過ぎるよなぁ、この寒空の中裸で外に出すって……。あいつはもう出禁だね」
店長の厚意なのか、その後もう1本ついて、珍しく2本の仕事をこなして帰れた。
次の客は、ごくおとなしくて、AF以外のオプションもなかったし、楽な仕事だったけれど、ひと晩の稼ぎが2万を超えたところで、私の心はちっとも晴れない。
裸にされ浴びせられたナイフの言葉が、胸の真ん中に生々しく突き刺さっている。
いつものように大通り沿いのコンビニの前で降ろしてもらい、家までの道をとぼとぼ歩く。
今日は、より一層厳しく頬に朝の冷気が吹き付ける。
どこかでスズメが鳴いている。犬の散歩をしているおじいさんがいる。こんな時間から部活なのかスポーツバックを抱えた女子高生が駅を目指している。
少しずつ明るくなっていくこの空の下、うまくいっている人も、そうでない人も、新しい1日に向かって動き出していて、背中を丸めて本当は帰りたくもない場所を目指しているのは、私だけなんだって気がする。
路上駐車の車のサイドミラーに映り込んだ自分の顔に目がいく。
可愛くない。全然、ちっとも、可愛くない。こんな顔で、よくもまあ風俗だなんて、ルックスが重要な仕事に就こうとしたものだと誰が思うだろう。
悪いのはすべてこの顔だ。
もし、私がレナさんの顔に生まれてたら、何もかもが変わってた。
同じ風俗という仕事を選んだとしても、もっと稼げて、もっと店から大事にされて、もっと客から優しく扱ってもらえてたんだ。
ブスのくせに? 生意気? 社会のクズ?
そうだ、たしかにその通り。ブスに価値なんかないんだから。可愛ければあんなこと言われるはずもなく、こんな痛みも知らずに済んだ。
嫌いだ。大嫌いだ。
風俗の仕事もセックスも客も男も。何より自分の顔が嫌いだ。
こんな顔に産んだくせに、やたら可愛くて、「あい」でも「あみ」でもない、発音しづらくて、覚えづらい名前をつけた親も。ブスのくせに、子どもを作ろうだなんて思うからいけないんだ。ブスの子どもは、ブスなんだから。ブスに生まれた以上は、絶対こんな思いをするんだから。
可愛くないのなら、いっそ生まれてこないほうがよかった。生んでほしくなかった。
はああぁ、とため息にしては長く息を吐き、吸った。朝の深呼吸はすっきりする。ひんやり喉を貫く朝の空気を取り込むだけで、傷ついて卑屈になった心が浄化されていくようで……。
親のことを嫌いだって言う人間は最低だと思ってるから、言葉にしなかったけど、言葉にしたことで、少しだけ気持ちが楽になった。
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