フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第7話>
<7回目>
ありがとうございます、と細い声で言っているいさんの白い手がお釣り袋を受け取る。
お札を数える横顔をさりげなく観察しながら、こんな時間にこの子に仕事がつくなんて珍しいなぁと思っていた。我ながら意地悪だ。
半年も同じ店で働いているから、結構な回数乗り合わせたけれど、るいさんに仕事がついてるのを見たのは、これで二回目か三回目じゃないだろうか。
はっきり言って可愛くないし雰囲気は暗いし、服装もひどい。
よほどお金がないのか、毛玉だらけのセーターとか、明らかにダメージ加工じゃない穴があちこち空いたジーパンとか着てきちゃうし、毎回持ってくるバッグも取っ手がぼろぼろにすり切れて、いつ底が抜けてもおかしくない代物だ。
ホームページの出勤表を見る限り、かなりの日数出てるけれど、とても稼げているとは思えない。
それでも店を辞めないってことは、お金に関してよほど切羽詰った事情があるんだろう。借金か、ホスト狂いか、ドラッグか、ヒモを飼っているのか。
お札を数える指が震えているのに気付いた。車内をオレンジ色に照らすライトの中、真一文字に引き結ばれた唇が、毛玉のくっついたセーターに包まれた肩が、小刻みに揺れている。
あぁ、この子は、ドライバーの電話が鳴る度、自分の仕事でなければいいと思ってしまう、そういう風俗嬢になっちゃったんだな……。
お茶を引けば辛いけど、仕事に行くのも苦しい、なのに風俗を辞めれない。そんな、病んだ風俗嬢がまた一人誕生したんだなと、あたしは思った。
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