フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第8話>
<8回目>
「いってきます」
「いってらっしゃい」
顔も知らない男に会いに、マンションのエントランスに入っていくるいさんを、形ばかりの挨拶を交わして見送る。ワゴンが走り出して、あっという間に小さくなるぽちゃぽちゃした肉付きのいい背中。
惨めなもんだ、はっきり言って。
「次、晶子さんと合流して仕事です」
「えっ? 今、晶子って言った?」
「はい」
「やったー! 会うの久しぶりだー!!」
晶子、すなわち伊織は、本名で呼び合うほど仲が良い。この業界に入って、というかおそらく人生で初めてできた本当の友だちだ。
基本、女は嫌い、でも伊織には女の暗い部分や、じめじめした部分がちっともなくて、男みたいにさっぱりしている。
あたしより三つも下、24歳にして5才の娘のシングルマザー、根性据わっていて、学歴はないけど頭も良くて、話していて気持ちいい。
「ねぇ、るいさんって、どれくらいいるっけ?」
女同士で女の悪口を言うと、いかにも女っぽいので、冨永さんにぶつけることにした。
車は環状八号線に入り、スピードを上げている。換気のために1/5開けた窓からひんやり気持ちいい風が吹き込んでくる。
「半年くらいだと思いますが」
「ふーん、いつ辞めるんだろう?」
「えっ、辞めるんですか? るいさん」
驚いた声。ううん、と首を振る。
「そうじゃなくてさ。絶対、続かないと思ってたもん。新人で入ってたきたの見た時からね。明らかに病んでるし、全然仕事ついてないっぽいし、可愛くないし。早く辞めたほうがいいよ、ああいう子は」
「辞めたほうがいいですか」
冨永さんは、人の陰口や噂話に絶対に同意しない。
かといって、そんなことありませんよって正義感からの否定もしない。だから話しやすい。
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