フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第8話>

2014-04-17 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,078 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Nanako フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<8回目>

 

「いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

顔も知らない男に会いに、マンションのエントランスに入っていくるいさんを、形ばかりの挨拶を交わして見送る。ワゴンが走り出して、あっという間に小さくなるぽちゃぽちゃした肉付きのいい背中。

 

惨めなもんだ、はっきり言って。

 

「次、晶子さんと合流して仕事です」

 

「えっ? 今、晶子って言った?」

 

「はい」

 

「やったー! 会うの久しぶりだー!!」

 

晶子、すなわち伊織は、本名で呼び合うほど仲が良い。この業界に入って、というかおそらく人生で初めてできた本当の友だちだ。

 

基本、女は嫌い、でも伊織には女の暗い部分や、じめじめした部分がちっともなくて、男みたいにさっぱりしている。

 

あたしより三つも下、24歳にして5才の娘のシングルマザー、根性据わっていて、学歴はないけど頭も良くて、話していて気持ちいい。

 

「ねぇ、るいさんって、どれくらいいるっけ?」

 

女同士で女の悪口を言うと、いかにも女っぽいので、冨永さんにぶつけることにした。

 

車は環状八号線に入り、スピードを上げている。換気のために1/5開けた窓からひんやり気持ちいい風が吹き込んでくる。

 

「半年くらいだと思いますが」

 

「ふーん、いつ辞めるんだろう?」

 

「えっ、辞めるんですか? るいさん」

 

驚いた声。ううん、と首を振る。

 

「そうじゃなくてさ。絶対、続かないと思ってたもん。新人で入ってたきたの見た時からね。明らかに病んでるし、全然仕事ついてないっぽいし、可愛くないし。早く辞めたほうがいいよ、ああいう子は」

 

「辞めたほうがいいですか」

 

冨永さんは、人の陰口や噂話に絶対に同意しない。

 

かといって、そんなことありませんよって正義感からの否定もしない。だから話しやすい。

 

 

 




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