フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第10話>
<10回目>
池袋までは15分。
化粧の最終チェックをして、伊織とひとしきり盛り上がるには十分な時間だ。卵型のすっきりした頬のラインに、ファンデーションをはたき込みながら伊織が言う。
「どうよ、最近。彼氏とはうまくいってる?」
「問題なし。そっちは? 野々花ちゃん元気?」
「元気元気。見てよ、これ。野々花が保育園で作ってくれたの」
伊織の携帯には、赤と黄色とピンクの三色で編んだ三つ編みの輪がぶら下がっていた。一見きれいに編めているけれど、よく見れば大きいのやら小さいの、網目の形が不ぞろいで、子どもが作ったものだとわかる。
「それ、ミサンガ?」
「なんだってさ。でも、これじゃあ、ただの三つ編みじゃんね」
「でも、嬉しいんでしょ、晶子」
「嬉しいよー、もちろん。こうしてストラップに加工して、携帯につけちゃうぐらい嬉しい。この仕事してたら、手とか足にはつけらんないしさ」
三つも年下の伊織だけど、こんなことを話していると、やっぱりこの子って大人だなーと思ってしまう。
人が大人になる基準は、仕事を持つことでも、結婚することでも、もちろんハタチの敷居を跨ぐことでもなく、子どもを持つこと、すなわち自分より絶対的に大切な存在を持つことなのかもしれない。
三つ編みをぷらぷらさせながら、伊織の表情が少し曇る。
「5歳になると、やっぱ知恵がついてくるんだよね。最近、この仕事バレてんじゃないかってドキドキする」
「うっそ、そんな感じするの!?」
「朝保育園に預ける時は普通なんだけどさ。昼間の仕事ない日で、夕方からここ来て、その前に保育園に行く日あるじゃん? そん時は、すごい泣くんだよね」
「昼間の仕事の前とこの仕事の前とでは、野々花ちゃんの態度が違うってこと?」
「なんとなくそんな気がする」
最後に野々花ちゃんに会ったのは、5歳の誕生日会の時だった。
母一人娘一人の小さなアパートを大人二人で誕生日に相応しく、ティッシュのお花や折り紙の輪飾りでデコレートしてケーキとオムライスを手作りして。
マシュマロみたいな白くて小さなほっぺたをいっぱいに膨らませてローソクを消した野々花ちゃんの目は、無邪気に透き通っていて、不安も怯えも、ちらりとも見えなかったのに。
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