フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第12話>
<12回目>
レンタルルームは、都内の繁華街にぽちぽちと存在していて、簡易バージョンのラブホテルのようなもの。
もちろん風俗専用です、だなんて受付に書いてはいないけれど、もっぱらホテヘルやデリヘルなど派遣スタイルのお店の女の子を呼ぶのに使われている。
部屋にあるのは、ベッド、テレビ、シャワー、それだけ。バスタブは無し、トイレは部屋の外。
宿泊もできるけれど、たぶん泊まったら、隣があんあんあんあんうるさいんだろうなと思う。ラブホテルに比べるとお粗末な作りで、壁も薄いと
ころが多い。
伊織と二人で狭い階段を上り、二階の受付でこれから入る部屋番号をそれぞれ告げて、エレベーターへ。
伊織は野々花ちゃんに直前までメールしているのか、携帯をいじっていた。
寂しがり屋の野々花ちゃんは、保育園でも5歳のお祝いに買ってもらったお子様用の携帯を手放せないらしい。
エレベーターがちん、と止まり、ようやく伊織が携帯から手を離す。
「じゃ、今度またお茶しよーね」
「おっけー、がんばろ!」
小さく手を振り、頬を両手でぱんぱん軽く叩いてから、お互い別々の部屋をノックする。
直前に何を話していたか、何を考えていたかなんてすべて頭の中から取っ払わなきゃいけない。一本一本が勝負なんだから。
いそいそと鍵が外れ、ドアが引っ張られる。
「こんばんは、失礼します」
あたしを見つめる色白のあどけない顔にびっくりした。
チワワかポメラニアンを彷彿させる、くるんと丸い黒目がちの瞳。小ぶりだけど筋の通った鼻に、キスしたら壊れてしまいそうなふっくらピンクの唇。日本人にしてはかなり色素の薄い肌と日向の猫の毛みたいな蜂蜜色の髪。
こういうところに来るってことは、たぶんサラリーマン。
23歳か24歳はいってるはずだけど、ワイシャツにズボンのいでたちは、下手をすれば高校の制服に見えちゃいそう。
まったく風俗という場所が似合わない清潔で整った容姿を、じろじろ眺めまわさないよう気を付ける。
でも、じろじろ見たくなるほど格好いい。
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