フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第22話>
<22回目>
「もしかしてレナさん、エンコーとかやってました?」
とめどなく溢れる言葉、自制心が効かないまま口から滑り落ちる過去。あたしの話の感想代わりのように、桜介くんが聞いた。
「やってた! えっ、なんでわかったの!?」
「いや、大学の時、女友達で……、付き合ってなかったけれど。その子が今のレナさんと同じようなこと話してくれたんです。エンコー経験があるっていう子で」
もじもじとしゃべる桜介くんの様子から、付き合ってなかったというその女友達に、実際の関係はなくても桜介くんの好意は向いていたんだろうなって、ちょっとだけ胸がざわついた。
こんなシリアスなことをしゃべっているのに、嫉妬?
変なの。
だいたい、お客さんに嫉妬するなんて。
「そっか……この仕事も、エンコーの延長なのかもね」
あたしはどうしようもなく寂しがり屋だ。
一人の彼氏だけじゃ満足できなくていろんな人に好きだとか可愛いとか言葉と態度を尽くして自分を肯定してほしいのは、体の真ん中に何を入れても立ちどころに消えてしまって決して満たされない、ブラックホールみたいな黒い黒い穴がぽっかりあいてるから。
「でもその仕事のせいで、レナさんに会えましたよ、俺」
声が上ずっている。勇気を出してそう言ってくれてるのだとわかって、素直に嬉しい。
「ありがとう」
互いの背中に腕を回し、キスをする。桜介くんの舌はお菓子みたいに甘くてやわらかい。こんなキスを毎日くれたら、何を入れたって無駄なあたしの穴も、少しは塞がってくれるんだろうか。
お金をもらいお仕事として会っている風俗嬢にあるまじき考えを抱きかけた時、携帯が鳴る。
あたしの着信音。互いの動きが一瞬止まるけれど、すぐ再び行為に没頭する。
無視しようと絡ませ合う舌に力を込める。
着信音は鳴りやまない。15回目のコールであたしは観念して体を離し、桜介くんはちょっと困った顔をしていた。
「ごめん、出ていいかな」
「どうぞ」
「本当にごめんね」
素早くベッドから滑り出て、ディスプレイに表示された名前を確認して思わず舌打ちしたくなるのをこらえ、広めの洗面所に移動、さらにその奥のトイレに入ってドアを閉める。
電話はまだ鳴り響いている。
不自然でない程度の小声で出た。
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