フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第30話>
<30回目>
父親がさんざん浮気していたことは、とうに母親の親戚一同に知れ渡っている事実で、父親のがっしりした肩が一気に小さくなる。
「お父さんが、もっとちゃんとお母さんを愛していれば、お母さんと向き合っていればよかった。それができないのならさっさと離婚するべきだったのよ!
小さいあたしが可哀想だから、あたしが大きくなるまで待とうとか思ってたんでしょ? そうじゃなくて、早くに突き放してれば、もっとお母さんの傷だって浅く済んだ、ちゃんと立ち直ってまた現実を見つめられたかもしれない」
違う、全然違う。ほんとはこんなこと言いたいんじゃない。
責めるべきなのは父親じゃなくて、自分だ。
小さい頃はお酒を飲んでばかりの母親に構ってもらえないのが、ただただ悲しかった。
そして、成長してからはとっくの昔に愛想を尽かされてるくせに、いつまでも父親にしがみつき、日ごとに病んでいく母親が疎ましかった。だからいつしかあたしは、こういう女には絶対にならないと決めていた。
自分はもっとちゃんと男の人から愛され、幸せになるんだって。
やがてあたしは、母親を捨てた。
それがこの結果で、あたしはほんとは自分に向けるべき刃で、父親を傷つけている。
葬儀は母親の親族によって営まれ、父親は出席しなかった。
死に方が死に方なので、あまり大げさにはしなかったけれど、それでも母親の親族を中心に結構な人数が集まった。
読経の声とみんなのすすり泣きに耳を傾けながら、数少ない優しかった母親の記憶を、あたしは取り出していた。
小学校で使う雑巾を不器用なりに縫い上げて得意げに渡してくれたお母さん、誕生日に一緒にハッピーバースデーを歌ったお母さん、二人でお風呂に入った後脱衣所に立ち込めるボディークリームの優しい香り……。
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