フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第37話>
<37回目>
「好きですよ。たしかにレナさんの言うとおり、俺はまだレナさんのことを知らな過ぎる。それでもはっきりしてることがあって、レナさんはちゃんと自分の仕事の意味を信じている。自分に自信を持ってる。そういうレナさんだから、好きになったんだと思います」
「あたしはそんなに偉い人間じゃないよ」
仕事にプライドを持っているかと問われればはいと答えられる。でも、いくらそれができない子が多いとはいえ、仕事なんだから頑張るのは当たり前で、褒められるほどのことじゃない。
「あたしは、ただ寂しいだけ。寂しいっていうのも嫌なぐらい寂しいから、自信のあるふりをしているだけ」
「わかってますよ、それも」
桜介くんがにっこりして再び抱きしめてきた。
今度は春先の午後の窓際のぽかぽかとあったかいところにいるような、優しい抱き方だった。ぽんぽん頭を叩くゆるやかなリズムに、今までずっと満たされることのなかった心の深いところが癒されていく。
自分に自信があるなんてとんでもない。
ほんとはそんなものないから、いつだって寂しくてしょうがないから、チヤホヤしてくれる誰かを常に欲した。
お客さんたちに可愛いねって、ありがとうって、上手いよ、気持ち良かったって、笑顔で言ってもらえることが何より嬉しかった。
逆にそれがなかったら、誰かに肯定してもらえなかったら、自分で自分を肯定できないあたしはどうやって生きていったいいのかわからない。
桜介くんに体も心もいっぱいにされながら、気持ち良すぎてまた少し泣いてしまった。
仕事でもプライベートでもセックスなんて数えきれないほどしてきたのに、こんな気持ちになるのは初めてだった。桜介くんは涙の意味をちゃんとわかっているよと言う代わりに、目じりにそっと口づける。
その日は桜介くんと赤外線通信をして別れた。
もうお店には来なくていい、お金勿体ないからと、あたしから言った。
あたしはもうお客さんとして桜介くんのことを見られない。
これ以上会うのなら、お店を通しちゃいけない。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。