フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第39話>
<39回目>
「いくら奈々子を愛してたって、むしろ愛してるからこそ、この仕事のこと納得できるわけないじゃん。納得してるように見えたとしたら、それはフリだけ。相手、真っ当なサラリーマンでしょ?」
「うん……」
「だったらなおさらだよ。この世界の外にいる男が、あたしらのことなんて、わかるわけない。いくら仕事としてプライド持ってやってます、頑張ってますって言ったって、伝わらないから。何を言っても、楽するためにやってるんだって思われるもん。風俗は仕事じゃないの、一般人からしたらね」
この世界にいない人に、この世界の女の子のことがわかるわけない――。
あたしは桜介くんにそう言ったけど、伊織が言うのも同じことだった。
伊織は真っ向から反対している。だけどそれは、ほんとはフタをして心の奥底にしまい込んでいた、あたしの不安を取り出して見せてくれているだけ。
桜介くんは優しいから、風俗を辞めてほしいと直接的には言えないだろう。
だからひとりで抱え込んで苦しんで、でも抱えきれずに、いつかは爆発するだろう。
伊織に言われるまでもなく、簡単に想像つく。
爆発したその時、あたしはどうするのか?
桜介くんに何をしてあげられるのか? 好きな人の望み通り、風俗を辞めることができるのだろうか?
伊織が少し声をやわらかくした。
「ごめん、少し言い過ぎだったかもね」
「ううん……。いいよ。伊織の言うこと、すごく正しいし」
「あたしが言うのは一般論だから。もしかしたら、奈々子とその人とだったら違うのかもしれない。決めるのは奈々子だよ」
小さく頷いた。
そう、いつでも決めるのは自分。
エンコーを始めたのも、風俗に入ったのも、桜介くんを好きになったのも、誰かに頼まれたことじゃない。
全部自分の意思。
すべて自分らしく生きてきた結果なんだから、これから桜介くんとどうなってもちゃんと受け止めなきゃいけないんだ。
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