フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第40話>
<40回目>
伊織が、ついうっかり風俗風俗と目の前で連呼してしまったのを後悔するように、野々花ちゃんを見る。お子さまパンケーキは、既にネズミサイズを超えてアリサイズだ。
「あーあ、そんなにしちゃって。ちゃんと全部自分で食べるんだよ」
「えー、食べたくなーい」
「だぁめ。食べ物は粗末にしちゃいけないって、いつも言ってるでしょ。全部食べないと帰りにお菓子買ってあげないよ」
「ママのケチー」
「ケチでいいもーん」
野々花ちゃんの真似をして唇を尖らせる伊織と目を合わせて、少し笑った。
野々花ちゃんといる時の伊織は、いい。育児なんて戦争のようなことのはずなのに、ちっとも大変さを見せず、大人の女の余裕って感じで笑っている。
いいな。お母さんって。
あたしを捨てて、お酒に逃げ死の世界に逃げた人のことを思い出して、涙腺が緩む。
めちゃくちゃな人だったけど、あたしはちゃんと彼女を愛していて、どれだけ泣いたところで、悲しみはすぐには過去になれない。
「どうしたのよ、奈々子」
「伊織と野々花ちゃん見てたら、なんかキた」
それだけで、あたしの言いたいことを察したらしく、伊織が黙ってティッシュを差し出した。
葬儀の後、実家から電話したら、あたしが泣いちゃいけないよねとか言いながら電波の向こうで泣いてくれたっけ。
ありがとうとティッシュを2、3枚取り出して目もとを拭うと、アイライナーが落ちて真っ黒になった。野々花ちゃんが不思議そうに見ている。
「おばちゃん、なんで泣いてるの」
「まだおばちゃんじゃないから!! もうすぐだけど!!」
伊織がケラケラ笑う。
そこで和やかなムードをかき消すような鋭い着信音が鳴る。メールだ。
「どっち? 新しい彼? それとも快晴さん?」
「……快晴のほう」
『話がある。俺のマンションに来て。今日は夜までずっといるから』
絵文字も顔文字もついてないシンプルな文面に、背筋が震えるような悪い予感を覚える。
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