フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第45話>
<45回目>
アドレス帳から桜介くんのページを呼び出して、電話をかける。
クリスマスに浮かれる街に相応しく、あたしは高々とハイヒールを鳴らし、背筋を伸ばして歩いた。
じろじろ見られても、こんな顔でも、もうすぐおばさんでも、風俗嬢でも、関係ない。
コートの袖の隙間から、冬の風が吹き込んでくる。皮膚をぴりりと尖らせるような冷たさが、いっそ気持ちいい。
桜介くんは3回目のコールで出た。
『もしもし』
「もしもし」
『今、どこですか?』
「どこでしょう」
『なんですか、それ』
「ねぇ、今すぐ迎えに来てほしいって言ったら、来てくれる? あたし、今、血まみれでひどい顔なの」
電波の向こうが一瞬沈黙し、それからテンパりだす。
『はっ? 血まみれ? いったい何があったんですか!? 大丈夫ですか? レナさんっ!!』
「だいじょぶ、だいじょぶ」
『だいじょぶって、そんな軽く……。まさかデタラメ言って、俺を心配させて、楽しんでますか!?』
「ひどいなぁ。そんなことしないし。ていうか今すぐ来てよ、ほんとに」
『行きますよ! 行きますから、だから場所はどこですか!!』
「場所言うからその前に、ひとつだけいい?」
『何ですか!?』
テンパり過ぎて、ちょっと怒ってる。
あたしは立ち止まって、冬の空を見上げた。
ビルの向こうにそびえるスカイツリー。もうすぐ夜が訪れる夕方の町。紺からオレンジ色にグラデーションを描いた空が、今日はめちゃくちゃきれいに見えた。
「あのね、あたしの名前、レナじゃないの。奈々子なの」
『……奈々子さん?』
「うん。これからはそう呼んで。あともうひとつ」
きっといっぱいふたりとも悩むだろう。苦しむだろう。
もし、桜介くんのために、風俗を辞めるとしたら、お金の問題だってある。
伊織の言うとおり、問題ありすぎの恋だ。
でも、やってやる。
「あたしをあなたの彼女にして」
フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<完>
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