フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第45話>

2014-05-24 20:00 配信 / 閲覧回数 : 960 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Nanako フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<45回目>

 

アドレス帳から桜介くんのページを呼び出して、電話をかける。

 

クリスマスに浮かれる街に相応しく、あたしは高々とハイヒールを鳴らし、背筋を伸ばして歩いた。

 

じろじろ見られても、こんな顔でも、もうすぐおばさんでも、風俗嬢でも、関係ない。

 

コートの袖の隙間から、冬の風が吹き込んでくる。皮膚をぴりりと尖らせるような冷たさが、いっそ気持ちいい。

 

桜介くんは3回目のコールで出た。

 

『もしもし』

 

「もしもし」

 

『今、どこですか?』

 

「どこでしょう」

 

『なんですか、それ』

 

「ねぇ、今すぐ迎えに来てほしいって言ったら、来てくれる? あたし、今、血まみれでひどい顔なの」

 

電波の向こうが一瞬沈黙し、それからテンパりだす。

 

『はっ? 血まみれ? いったい何があったんですか!? 大丈夫ですか? レナさんっ!!』

 

「だいじょぶ、だいじょぶ」

 

『だいじょぶって、そんな軽く……。まさかデタラメ言って、俺を心配させて、楽しんでますか!?』

 

「ひどいなぁ。そんなことしないし。ていうか今すぐ来てよ、ほんとに」

 

『行きますよ! 行きますから、だから場所はどこですか!!』

 

「場所言うからその前に、ひとつだけいい?」

 

『何ですか!?』

 

テンパり過ぎて、ちょっと怒ってる。

 

あたしは立ち止まって、冬の空を見上げた。

 

ビルの向こうにそびえるスカイツリー。もうすぐ夜が訪れる夕方の町。紺からオレンジ色にグラデーションを描いた空が、今日はめちゃくちゃきれいに見えた。

 

「あのね、あたしの名前、レナじゃないの。奈々子なの」

 

『……奈々子さん?』

 

「うん。これからはそう呼んで。あともうひとつ」

 

きっといっぱいふたりとも悩むだろう。苦しむだろう。

 

もし、桜介くんのために、風俗を辞めるとしたら、お金の問題だってある。

 

伊織の言うとおり、問題ありすぎの恋だ。

 

でも、やってやる。

 

「あたしをあなたの彼女にして」

 

 

フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<完>

 

 




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