フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第3話>
<第3回目>
背中を向けてワンピースのホックを外し、ストッキングを丸めて足から抜いて、ショーツを下ろす。後ろで聞こえる衣擦れの音のせいで、心臓がバクバクうるさい。
いつもは何気なくこなしている仕事の手順ひとつひとつが、今だけ特別に思える。
一緒にバスルームに入ると、天井で光る薄黄色のライトに照らされた裸体が眩しくて、目を刺された。
サッカー部で鍛えた筋肉は今も健在で、肌は健康的な小麦色、厚みのある胸にレーズンみたいな乳首がぽつんと乗っかっている。贅肉がちっともないお腹の下には真っ黒で濃い茂みがあって、その下はさすがに見れない。
ボディソープを泡立て、長谷部くんの体に塗り付ける。
長谷部くんはすぐに抱き寄せてきて、自分の体を覆う泡をわたしの肌に絡ませた。背中にも胸にもお尻にもあそこにも、ありとあらゆるところに長谷部くんの手が伸びてきて、無意識のうちに喘ぎ声が出る。
ひょっとしたら不感症なのかもと疑うくらい、仕事で感じることは滅多にない。
触られても気持ち悪いことのほうが多くて、いつも必死で演技している。
さすがに肝心な部分をピンポイントで刺激されたらイクけれど、そういう時だって頭の芯はひんやりしていて、ちっとも好きでもない人に反応しイカされたことへの嫌悪感で、終わった後泣きたくなる。
そんな、セックス嫌いの風俗嬢のわたしが、長谷部くんに触れられてAV女優のようなすごい声を上げている。下腹部に当たる長谷部くんのが、火柱を吹いてるんじゃないかと思うほど熱い。
「美樹ちゃん、可愛い」
ごく自然な流れでキスをされる。
2枚の舌が蛇の交尾のように絡み合う。
美樹。美樹ちゃん。それが自分の名前じゃなくたって、男が好きにするためだけの肉体に割り振られた記号に過ぎなくたって、わたしの中心は熱く甘くとろけていく。
ホンモノじゃなくていい。かりそめの愛情でいい。絶対に欲張らないから今だけ全力でわたしを愛して。わたしはあなたが好きだったから。とてもとても好きだったから。
ほんとは今でも好きだから。
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