フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第7話>
<第7回目>
「また見てるの? 長谷部くんのこと」
「うん……」
「江口くんとは? さっき、何話してた?」
「一緒に帰ろうって言われた。断っちゃった」
「千幸さー」
呆れたように語尾を伸ばしてから声をひそめ、顔を近づけてくる。
「彼氏できたんだから、いい加減長谷部くんのこと吹っ切らなきゃ。いつもそんな態度取ってたら江口くんに失礼だよ」
「……わかってるもん」
拗ねた言い方になって、彩菜から顔を逸らし、また窓の外に視線を向ける。
すっかり見失った。校庭を囲む歩道にいくら目を凝らしても長谷部くんの姿は見つけられない。
何やってんのよもー、と彩菜のげんこつに肩を突かれ、力ない笑顔を返す。
高1から高3までずっと同じクラスの彩菜は、世界で唯一、わたしが長谷部くんを好きだって知っている人間だ。
174cmの長身を生かし、夏までバレー部で活躍していて、来年の春から体育科のある大学に入るため勉強中。サバサバしていてものをキッパリ言う彩菜は、引っ込み思案なわたしとは全然違うタイプ。運動神経だけじゃなくて成績もいいし、みんなをまとめる力があって夏のスポーツ大会では女子チームのキャプテンを務めてた。
高校に入ってからのわたしは、彩菜のおかげで中学までは話したことのなかったタイプの人ともしゃべれるようになった。
「江口くん、ほんとはわたしのこと好きじゃないのかもしれない」
机にだらんと伸ばした両腕に顎を乗せて言う。
そこそこの進学校だけど、化粧とかスカート丈とかあんまりうるさくないのびのびした田舎の県立らしく、数か月後に受験を控えた今でも、放課後の教室には楽しげなおしゃべりと笑顔が飛び交っている。
うつ病患者みたいな顔で話しているのはこの中でわたしだけ。
「好きじゃないならコクってこないでしょ」
「それはそうだけど。でも、好きの度合いってあるじゃない?」
「千幸さー、自分が他の人ばっか見てるからそう思うんじゃないの? 浮気してる人は相手の浮気も疑うとか言うじゃん」
そう言われたら、何も言い返せない。
もし、江口くんが本気でわたしを思ってくれているなら、わたしは江口くんにものすごくひどいことをしているわけだ。
彩菜が怒るのも無理はない。
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