フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第10話>
<第10回目>
「マジで? マジで来年、リベンジ?」
「うん。それなら、長谷部くんの文化祭がこれで終わっても来年があるでしょ」
「そうだけど。でもみんな、賛成してくれっかなー。俺らだけの意思で決められないじゃん、お化け屋敷できるかどうかなんて」
「絶対お化け屋敷がいい、お化け屋敷じゃなきゃ文化祭ボイコットするぐらいの勢いで、お化け屋敷を推そう。それぐらいがんばんなきゃ」
「そだな!!」
元気よく言うと長谷部くんの口もとからチャーミングな八重歯が覗く。遠くから見てる時も格好いいな、ちょっといいな、とは思っていた。けれども、こうして近くで見ると本当に格好いい。
芸能人並みのイケメン、とまではいかないものの、子犬みたいにくるくる変わる表情や、口もとの辺りに未だ子どもっぽさを漂わせているのが、たまらなく可愛い。
「じゃ、約束!!」
当たり前のように手を伸ばされ、長谷部くんの右手の小指がわたしの左手の小指に絡みつく。
肩がぶつかっただけでもひどく悪いことをしたように謝る他の男の子たちと違って、自分からわたしに触れてくる長谷部くんの動きはとても自然で、かついやらしいところがまったくない。だからこそ心臓が跳ね上がった。
「ゆーびきりげんまん嘘ついたらはりせんぼんのーます」
小学生みたいに節をつけて歌う長谷部くんの手がわたしの手を上下させる。呆気に取られて、一緒に歌えなかった。長谷部くんに触れている小指はわたしの体の0.1%ほどの面積しかないのに、全身が長谷部くんに熱せられている。
指切った、と呆気なく小指が離れた時、もっと繋がっていたいと心の奥でこっそり思っていた。
「約束したからな、絶対だからなー。来年こそ絶対お化け屋敷だぞ! 万が一この約束忘れて、メイド喫茶やりたーいとか言ったら柿本さん裏切り者だから!」
「言わないって、そんなこと」
「てか、はりせんぼんって、どっちなんだろうな。針を千本? 魚のハリセンボン?」
「さぁ、わかんない」
何気ない会話がさっきまでとは違う意味を持っている。
この日以来、わたしは長谷部くんを熱心に目で追うようになった。文化祭が終わって学校に日常が戻ってきてからも、休み時間も教室移動の時も、2年生になってクラスが分かれた後も。
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