フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第12話>
<第12回目>
「そろそろさあ、潮時じゃないの。こんなこと言いたくないけど、毎日この窓から長谷部くんのこと探してる千幸、ハッキリ言ってイタいよ」
バレー部を引退してから伸ばし始めた彩菜の髪はもう肩に届く長さで、まだ長いことに慣れてないのか邪魔そうに毛先をいじる。
髪を伸ばしたり、今までは部活の時に落ちちゃうからって眉の形を整えるぐらいだった化粧を本格的に始めたり、バレー部引退後の彩菜はどんどん垢抜けていってる。
わたしよりずっときれいに、大人っぽくなっていく。
「わかってるよ、自分でも。イタい女だって」
「だったらちゃんと現実と折り合いをつけなきゃ。てか、千幸だってそう思って江口くんと付き合ったんでしょ?」
「そのつもり……」
「なら、江口くんとしっかり向き合って、長谷部くんのこと忘れなよ」
「……できるなら、そうしたいよ」
自分が一番よくわかってる。
加恋ちゃんと熱烈恋愛中の長谷部くんがこの先わたしと付き合ってくれる可能性は、ゼロ。
あの二人が付き合いたてだった頃、失恋のショックの真っただ中抱いたかすかな希望は、「どうせすぐ別れる……かも?」ということだった。
高校生の恋愛なんてくっついたり離れたりを3カ月ペースで繰り返すのが当たり前で、長谷部くんと加恋ちゃんだってそうかもしれない、いやそうに決まってる、って。
ところがわたしの期待に反して、二人は日に日にカップルらしくなり、絆を深めていく。なんせ、付き合って1年半も経つのにまだ一緒に帰ってるんだ。
これって、倦怠期が来ていない証拠。この分だと、一緒に東京の大学に行こうとか、将来の約束だってあるのかもしれない。
「忘れたいのに、忘れられないから困ってる」
「それは、千幸の中に本当はまだ長谷部くんを忘れたくないって気持ちがあるからなんじゃないの? 千幸は本気で長谷部くんを思い切ろうとしてないんだよ」
彩菜と2人、もう長谷部くんがどこにもいない窓の外を見ていた。
玄関から生徒が吐き出され、みんなほぼ同じペースで校門へと連なって歩いている校庭。空はどんより重たそうな雲が垂れ込めていて、校庭の周囲をぐるりと縁取るソメイヨシノは本格的な紅葉の時期に先駆け、既に冷たい風に枯れ葉をさらわれている。
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