フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第33話>
<33回分>
「中山くん、相変わらずだね」
「ほんとすごいよなあいつ。ああいうのがあのまま大人になって社会人になって、キャバクラとか行くのかもな」
「言えてる」
ココナッツのトッピングがかかった思いきり甘いドーナツにかぶりつく江口くんの様子はごくいつも通り、わたしと彩菜の会話を訝しんでいる感じはまったくない。
2人で振り返って彩菜たちのほうを見て、朋子と一緒に戻ってきた沙紀が身を乗り出してくる中山くんから体を引いていて、顔を見合わせて笑ってしまった。表向きはわたしたち、普通の仲の良い高校生カップルだ。
「柿本、この前の模試どうだった?」
「模試? うーん、第一希望のところは無理そうだけど、そこはどうせ駄目だって思ってたし。第二希望からはBとかCだったからまぁまぁかな。なんで?」
「いや、さっき菅原となんか難しそうな顔でしゃべってたじゃん、俺ら上がってきた時。受験のこと話してたのかなって」
すっかり油断してたところにいきなりそんなことを言われて、あやうく残り一口のオールドファッションを喉に詰まらせそうになった。なんとか素知らぬ顔で飲み下し、口元を笑いの形にする。
「うん、そう。江口くん、勘いいね」
「大丈夫? なんか悩みとかあったら、いつでも言ってよ。相談乗るから」
「ありがとう」
いつでも言ってよ、相談乗るから、か。
ほんとに他意なく、わたしのことを考えて純粋に言ってくれるだけだと思うけど、なんとなく取ってつけた台詞のように感じた。
優しい江口くん、いつでもわたしのことを一番に考えてくれて、部屋でわたしに触れる時だって嫌って言ったことは絶対しない。
どうして、優しいだけじゃ好きになれないんだろう。いつになったらわたしはこの人に心を開けるのか、好きになれるのか。
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