フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第34話>
<34回目>
江口くんの視線がわたしの肩越しから逸れて、後ろを見ているのに気付く。首を120度捻って、カフェオレのカップを握る手が一瞬、震えた。
いつのまにか長谷部くんと加恋ちゃんがいた。それも、わたしたちのテーブルのすぐ後ろ、ほんの数メートルの距離。一年の頃は立ち話ぐらいはした仲なのに、今は長谷部くんはわたしに挨拶すらせず、加恋ちゃんとの話に夢中になっている。
店内がうるさ過ぎて二人の会話は聞こえないけれど、二つの頭はわたしと江口くんよりもずっと近づいていて時々楽しそうに揺れて、あぁやっぱりこの二人、セックスの関係があるんだろうなと思う。
江口くんに触れられてからそういうことが前よりもよくわかるようになった。なってしまった。
「あの子さ、同じ中学だったんだ」
江口くんの言うあの子、が加恋ちゃんを指していることに気づくまでに少し時間がかかった。
「今はサッカー部のマネージャーだったんだけど、中学の時は野球部でマネージャーやってんだよ」
「へぇ。江口くん、中学も野球部?」
「うん。だから一年半、同じ部活にいた」
「へー。モテただろうね加恋ちゃん。可愛いから」
江口くんは口もとについたココナッツを邪魔そうに指ではらっていた。
「だから他のマネージャーから、ちょっと、いじめみたいなのに遭ってたよ。モテるからって生意気だとか、野球に興味ないくせに男目当てで入ってくるなとか」
「男目当て、か。案外ほんとかもね」
嫌な言い方になってしまって慌てて謝ると、江口くんは少し不思議穂そうになんで謝るの、と聞いてきた。別に、って言っただけじゃ説得力なかったかもしれない。
学校で一番可愛いって言われてる加恋ちゃん。長谷部くんと付き合った今でも誰々が惚れてるとか誰々に告白されたとか、そんな噂が絶えない加恋ちゃん。嫉妬したってどうしようもないのに知らず知らずのうちに、加恋ちゃんへの嫉妬と憎悪が膨らんでいく。
もしあの子が存在してなかったとして、長谷部くんは誰か別の可愛い子と付き合っていただけなのに。
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