フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第3話>
<3回目>
「お荷物、おまとめしますか?」
右腕にひとつ、左腕に2つ。計3つの紙袋が気になって言うと、女は少し考えてから、「じゃあこれと一緒に」と、右腕に提げていた少し小さめの袋を差し出す。
なるべく荷物が大きくならないよう、数サイズあるブランドロゴが印刷された紙袋の中から、ツインニットとスカートと紙袋がぎりぎり収まるものを取り出す。
「今日はいっぱいお買い物したんですか?」
そう言うと女は一瞬、バツの悪そうな顔をした。
「えぇ。つい、いっぱい買ってしまって……」
「ちょうどお正月のセール終わって、どこも春物出始めの時期ですもんねー。お買い物、楽しいですよね」
えぇ、と女は浅く首を上下させた。
肉付きのいい首に、深く刻まれた皴を発見する。さっきはあたしと同じくらいか少し上って思ったけど、もっと歳、いってるのかもしれない。
店の入り口で王様への献上品のように丁寧に紙袋を捧げ、ありがとうございますと送り出す。
振り返らない背中は想像通り、駅のほうじゃなくて歌舞伎町方面へと向かう。
これから歌舞伎町の箱ヘルだか、ホテヘルだかで、お仕事なんだろうな、あの人。
時々見かけて、声もかけたことがあったけれど、買い物していったのは初めてだった。
ツインニットに9800円、スカートに18000円。3万近くポンと出せて、その上既にあれだけ買い物してるんだ。
そういえばこの前見かけた時も、両腕に紙袋だらけだった。もしかしたら買い物依存症ってやつかもしれない。
前勤めてた箱ヘルにもいたっけ? 風俗で働いてるうちに、どんどん精神病んでって、着飾ることぐらいしか楽しみがなくなっちゃった子……。
買う側も風俗嬢なら、売る側も風俗嬢。
ショップ店員の女の子は、店員としての給料だけじゃ生活を維持できなくて、キャバや風俗で働く子がすごく多い。
どこかの客がどこかの女に払ったお金が、巡り巡って、やはり夜の女であるあたしの懐に流れてくる。それがこの町の経済構造だ。
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