フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第5話>

2014-07-08 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,190 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<5回目>

 

夜になると、もうひとつの顔を持ってる子がすごく多いアパレル業界にいるのに、

 

『あたし、キャバも風俗も絶対しないって決めてるんだよね。そうやって若さを切り売りするなんて勿体ないじゃん? それに一度楽な道に流れてっちゃったら、甘えた考えになっちゃいそうだし』

 

ってのが美和子の意見。

 

ごくごく普通のまともな考え方だと思う。

 

でもキャバや風俗で稼ぐのは、普通の人が思ってるより楽じゃない。……そう反論したかったけどもちろんできなかった。

 

いつだか覚えてないぐらい、かなり前にした話。

 

「看護師なら手に職だしね。給料、世間で一般的に思われてるよりは、良くないらしいけど、それでも今の仕事よりはいいっしょ。実家に戻れば当面はやってけるしさ」

 

「手に職かぁ……。んー、でも、あたし、看護師とか介護士とか、そっち系はちょっと無理だな」

 

「3Kって言うもんね。きつい、汚い、気持ち悪い」

 

今からその3Kの道に進もうっていうのに、美和子の横顔は明るい。完全にショップ店員には見切りをつけちゃったみたいだ。

 

「それもそうだけど、人の命を左右する仕事でしょ? 怖くないの?」

 

「んー、そう考えると、たしかに重いね。正直自信ないし。でも、昔から人の役に立つ仕事をしたいっていうのはあったんだー」

 

胸の奥で生まれた小さなざわつきが、少しずつボリュームを増して広がっていく。

 

人間関係の問題とかじゃなくて、こういう前向きな理由での退職なら、おめでとうって応援してあげなきゃいけない。

 

頭ではわかっていても心が言うことを聞かなかった。

 

あたしを置いて先へ進んでいこうとする美和子に、どうしても嫉妬めいたものを感じてしまう。

 

あたしだってずっと風俗の仕事に甘んじたくはない。いくつになってもできる仕事じゃないんだし、風俗とのダブルワークなしで、親子2人食べていける仕事に転職することをそろそろ考えなきゃいけない。

 

わかっていても、日々のあれやこれやに追われるばかりで、具体的に動けていないあたしに対し、美和子は1人で「先」を見つけてしまった。

 

こんなこと思ったってしょうがないのに、美和子がどうしても羨ましい。

 

 




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