フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第16話>
<16回目>
「あんた、やっぱりこっちに戻ってきたほうがいいんじゃないの。昼働いて夜もバイトして、そのうち倒れちゃうわ。大体深夜のコンビニなんて、強盗でも入ったらどうするのよ」
「そんなの心配してたら何もできないし。道歩いてたって通り魔に刺されたりすんだから」
「そりゃそうだけどねぇ」
風俗で働いてることは、もちろん秘密だ。深夜のコンビニバイトですらこんなことを言ってくる人だ、風俗だなんて知られたら。
怒られるだけならまだいい。
あたしにそんな仕事をさせるぐらいならと、あたしの代わりに老いて衰えた体に鞭打って働いて、体を壊したりしたら。あたしが野々花のためならなんでもできるように、この人だって、あたしのためならそれぐらいはやりかねない。
伊織見てると、心配なのよ。あんたってめちゃくちゃだったくせに、変に頑張り屋のところあるから。お父さんに似たのかねぇ」
「むちゃくちゃは余計だよ」
今でこそこんなに穏やかに話せているけれど、10代の頃はこの人に心配かけ通しだった。
あたしが荒れたのは、中学に上がるのとほぼ同時だった。特に理由もきっかけもない。お父さんが厳し過ぎた他は、ごく普通の家庭環境だと思うし、一人娘でしっかり愛されて育ってきたと思う。学校でいじめられたようなこともなかった。
ただ、面白かったんだ。
今までは従うしかなかったはずの大人に逆らったり、他の学校の不良の子と喧嘩したりするのが。万引きしたり、タバコ吸ったり、クスリやったり、エンコーも……。
そういうことが教室と家を行き来するだけの普通の子よりあたしを大人にしてくれると、世界を広くしてくれていると、信じてた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。