フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第17話>
<17回目>
小さい頃から食事中足を崩していると膝を叩かれたり、門限を破ると家に入れてくれなかった厳格な父親は、荒れたあたしに当然、ブチぎれた。
顔を合わせるたび怒鳴られ、殴られた。だけど、やられっぱなしは嫌だったあたしは、大の男の力に椅子を振り回したりテーブルをなぎ倒したりして応戦した。そんな2人の間で、お母さんはおろおろ泣いてたっけ。
家に帰るたびそんな状態なので、やがてプチ家出をするようになった。補導されては家に帰され、そしてまた殴り合って飛び出す。その繰り返し。
高2の夏に学校を中退してからは、ほとんど家に帰っていない。野々花を妊娠した時もまだ18歳だったから、お父さんに許してもらえるはずもなく、もう二度と我が家の敷居は跨がせないとついに勘当された。
相手の男と小さなアパートで暮らし始めたものの、まもなく上手くいかなくなり、彼は他に女を作って出て行った。
お腹の中の野々花と2人きりで取り残され、その頃には既に7カ月に入っていて、中絶もできなくなっていた。
どうしようもなかったあたしに手を差し伸べたのはお母さんで、お父さんに内緒でこっそり仕送りをくれ、病院にも付き添ってくれた。陣痛の時、腰を撫でてくれた手のひらの温もりは、一生忘れない。
「何事も体が資本なんだからね。野々花ちゃんのために頑張ろうって気持ちは偉いけれど、あんたが倒れちゃ、野々花ちゃんはどうなるのよ? まだ若いからって、安心しちゃだめなの!」
お母さんの言葉はスルーできない重みを持って胸の真ん中で響く。
あたしが野々花が心配でぐっすり眠れないのと同じように、この人だって、全身全霊であたしを心配している。
だからこそ素直にそれに甘えられない。
「わかった。でも、もうちょっと、一人で頑張ってみる」
もし、この先、またお母さんと暮らせる時が来たら……?
それはあたしが風俗を辞めた時だ。
風俗を悪い仕事だとは思わない。
でも風俗に頼って生きていくのは、親に嘘をついているのは……。
……やっぱり後ろめたい。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。