フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第17話>

2014-07-20 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,150 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<17回目>

 

小さい頃から食事中足を崩していると膝を叩かれたり、門限を破ると家に入れてくれなかった厳格な父親は、荒れたあたしに当然、ブチぎれた。

 

顔を合わせるたび怒鳴られ、殴られた。だけど、やられっぱなしは嫌だったあたしは、大の男の力に椅子を振り回したりテーブルをなぎ倒したりして応戦した。そんな2人の間で、お母さんはおろおろ泣いてたっけ。

 

家に帰るたびそんな状態なので、やがてプチ家出をするようになった。補導されては家に帰され、そしてまた殴り合って飛び出す。その繰り返し。

 

高2の夏に学校を中退してからは、ほとんど家に帰っていない。野々花を妊娠した時もまだ18歳だったから、お父さんに許してもらえるはずもなく、もう二度と我が家の敷居は跨がせないとついに勘当された。

 

相手の男と小さなアパートで暮らし始めたものの、まもなく上手くいかなくなり、彼は他に女を作って出て行った。

 

お腹の中の野々花と2人きりで取り残され、その頃には既に7カ月に入っていて、中絶もできなくなっていた。

 

どうしようもなかったあたしに手を差し伸べたのはお母さんで、お父さんに内緒でこっそり仕送りをくれ、病院にも付き添ってくれた。陣痛の時、腰を撫でてくれた手のひらの温もりは、一生忘れない。

 

「何事も体が資本なんだからね。野々花ちゃんのために頑張ろうって気持ちは偉いけれど、あんたが倒れちゃ、野々花ちゃんはどうなるのよ? まだ若いからって、安心しちゃだめなの!」

 

お母さんの言葉はスルーできない重みを持って胸の真ん中で響く。

 

あたしが野々花が心配でぐっすり眠れないのと同じように、この人だって、全身全霊であたしを心配している。

だからこそ素直にそれに甘えられない。

 

「わかった。でも、もうちょっと、一人で頑張ってみる」

 

もし、この先、またお母さんと暮らせる時が来たら……?

 

それはあたしが風俗を辞めた時だ。

 

風俗を悪い仕事だとは思わない。

 

でも風俗に頼って生きていくのは、親に嘘をついているのは……。

 

……やっぱり後ろめたい。

 

 

 




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