フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第19話>
<19回目>
お母さんも奈々子もまったく悪意なく、そして無責任に、「彼氏を作れ」だの「恋愛しろ」だの「早く嫁に行け」だの言うけれど、今はそんなこと考えられない。
あたしたち母娘を捨てた野々花の父親に未練があるわけでも、ひどいフラれ方のせいで男なんてもうこりごりとか思ってるわけでもない。ただ、本当にそういうことを考えたり行動したりする余裕がないだけだ。
そう考えると、10代の頃って恵まれてたんだな。なんだかんだ自由だったし、時間は常に余ってたし、常に周りには友だちがいて、交際範囲はその気になればいくらでも広げられて、出会いなんて掃いて捨てるほどあった。
でも、大人になって仕事を始めた今は、恋をしたければ行動しなきゃいけない。身近にいる男性といえば、冨永さん始めドリームガールのドライバースタッフと、お客さんぐらいなんだから。
アンダーグラウンドな世界にどっぷり浸かって生きている男と深く関わるのは嫌だし、お客さんなんてもっと考えられない。
風俗嬢とお客さんの恋愛がどんな悲劇を生むか、あたしはよく知っている。
馬鹿な女を捕まえて一発ヤリたいだけの男に引っかかるなんてのは論外だが、本気同士ならもっと悲劇。お互い真剣ならば真剣なほど、辛くなるんだ。
まだドリームガールに来る前、箱ヘルに勤めたりホテヘルに移ったり、ホテヘルを辞めて箱ヘルに戻ったり、箱ヘルとソープを兼業したりしていた頃、お客さんと付き合っていたことがある。
野々花はまだ小さかったから覚えてないだろう。箱ヘルに一度だけ来た人で、サラリーマン4人グループの1人だった。
「俺、こういうの苦手なんだよね」ってプレイルームに入るなりベッドに腰掛け、コンビニの袋から「どっちがいい?」とビールと缶チューハイを出してきた。
マカデミアナッツをおつまみに、とりとめのない話をした。
彼には小学生の息子がいること、バツイチであること、あたしは小さな娘がいること、結婚せずに産んだこと……。そんなことを時間いっぱい話した。
お互いに服は脱がず、彼はあたしに触れようともしなかった。
そういうことをするための場所に来ておいて何もしない彼に、女のプライドが刺激された。さりげなく膝に手を置いたら、そんなのはいいからとやんわり振り払われた。悔しかった。
帰り際、名刺をくれた。あたしのメアドは聞いてくれなかった。
1週間迷った後、電話した。
お店を通さずデートしたのは、その1週間後。
キスをしたのはさらにそれから1カ月後。
きっかり1週間おきに会っても話をするだけで、手も繋いでこない彼に、ついにあたしがキレたんだ。
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