フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第23話>
<23回目>
今はレナって呼ばなきゃいけない。久しぶりに会うのでついテンション上がったが、車に入ってくるなり、げっそりやつれた顔にびっくりする。
「どうしちゃったのよ、そのクマ」
開口一番言ったあたしに奈々子は苦笑いする。力なく震えるハリのない頬が痛々しい。
「そんなこと言う晶子だってクマ、あるじゃん」
「あたしのクマよりレナのクマのがひどいっしょ」
「しょうがないよ、今、寝る間も惜しんで就活中だもーん」
「へー、働くんだ」
ドリームガールで働いていることを意地悪な同僚にばれ、会社じゅうに言いふらされて会社を辞めた奈々子は、今は風俗一本になっていた。
あたしに指摘されたクマが気になるのか、コンパクトミラーを取り出し目もとの化粧を直しながら言う。
「うん。あたし今、彼氏と同棲してるから。なるべく早く昼間の仕事見つけて、そしたらドリームガール卒業だもん」
「マジ!? ついに辞めちゃうの!?」
もう一度、うん、と軽い声。
そんなことを冨永さんとはるかさんの聞いている前で言うってことは、本気なんだろう。
早番の時はいつも自宅まで送ってもらう奈々子は、冨永さんに違う地名を告げている。そこが例の、ピュアで優しい年下の彼と奈々子の愛の巣らしい。
「もう、店長にも言った。なんとか週1でも、いや2週間にいっぺんでもいいから残れないかって引き止められたけど」
「そりゃ引き止められるっしょ。なんせ、ナンバーワンなんだから。レナが抜けたらドリームガール、大打撃だよ」
「だいじょぶ、だいじょぶ。晶子とか、あたしの後から入った子がどんどん育ってきてるし」
「いや、あたしなんてレナに比べたら全然大したことないよ」
お世辞でも大げさでもない。奈々子、いやレナが、どれだけこの仕事にプライドを持っているか、いつも丁寧に真摯に仕事に取り組み、どんなクソ客だって笑顔で帰してあげようと心を砕いているか、よく知ってる。
「とにかく、もう決めたからさ。昼間の仕事見つかり次第、ここやめるよ。長くてあと1か月ってとこかな……。あ、冨永さん、その角右」
車を降りて彼氏の待つ家へと向かう奈々子。
細い路地の奥に消えていく背中を見送りながら、なんとも表現しがたい気持ちがぐるぐるしていた。
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