フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第26話>
<26回目>
「煙草、吸ってきます」
最初に待機していた新宿中央公園の前に戻ると、冨永さんは車を出て行った。
遠ざかっていくクロックスを履いた足音をじっと聞いているように、真穂ちゃんが一瞬静かになる。と思ったら、さっきよりさらに高いテンションでしゃべり出す。
「ねーねー、晶子さん、あの人どう思いますー? なんか、変じゃないですか」
「あの人って、冨永さん?」
あぁ、そんな名前でしたっけ、なんてあっけらかんと言う。後部座席ではるかさんが寝返りを打ったのか、上着がシートにこすれる音がした。
「絶対変ですよー。いっつもホームレスみたいな格好してるし、意味不明な冗談言い出すし。この前、お札とカードをゴムで束ねてた時はびっくりしちゃいました、あれがお財布の代わりなんて非常識ですよぉ」
「別にいいんじゃないの? たしかにいっつも汚いカッコしてるけど、別に臭くないし、お札とカードをゴムで束ねてたって、誰に迷惑かけてるわけでもないし」
つい、庇ってしまった。
あたしには馴れ馴れしく話しかけてくるのに、冨永さんには警戒心を抱く。この子の人物判定基準がよくわからない。真穂ちゃんだったら冨永さんのあのトボけた冗談に、ゲラゲラ笑ってそうなのに。
「晶子さんは優しいですねー。あの人、一見穏やかそうだけど、何考えてるかわかんない顔してるじゃないですか。だいたい、こんなところで働いてる男の人なんてロクデナシに決まってますよー?」
「ま、そうかもしんないけど」
「でしょ、でしょー? ああいう人が、通り魔事件とかストーカー殺人とか、変な事件を起こすんですよぉ。あの顔は、絶対そう」
「そんなことないと思うよ」
耳に馴染まない声がいきなり背中からやってきて、あたしも真穂ちゃんもびっくりして後ろを見た。
黒いダウンジャケットを着たはるかさんを、初めて正面から見る。暗い車内にぼんやり浮かび上がる、白い面長の顔。整ってるけど、ドリームガールの中ではなかなかの年輩だ。ほうれい線の具合から察するに30歳は超えている感じ。
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