フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第37話>
<37回目>
マンションの4階の自宅に呼んだその新規さんは、いきなり歳を聞いてきた。24歳ですと告げると心底驚いたように言う。
「うっそー。もっと上だと思ってた」
「やだ、ひっどーい」
内心相当ムカついてたが顔には出さず、営業用の猫撫で声で返す。
接客はいつも真剣にやる。どの店でだってそうだけど、店の力に頼ってたら稼げない。頼れるのは自分だけ、稼ぎたければ本指を捕まえておくしかない。
奈々子みたいにナンバーワンになりたいわけじゃない、でも常に一定数の本指は返ってくるよう、仕事にはあくまで真摯に取り組む。
服を脱がせ、脱がせたものを脱衣所の籠に畳み、自分も裸になって浴室へ。ボディソープを手のひらで泡立て、皮と脂肪が段を作ってるお腹や中途半端に毛の生えた胸に塗り付けていく。
最初はされるがままになっていた40歳ちょい過ぎぐらいの新規さんは、あたしの手が股間に触れた途端、もう我慢ならないと言わんばかりに抱き寄せてくる。
「名前なんだっけ?」
「晶子です」
「晶子ちゃん、いいねー。細いしスタイルいいし、おっぱいも、こんぐらいが俺の好み」
年齢の割には稚拙な愛撫に身を任せつつ、こんぐらいで悪かったなと胸のうちで毒づく。
シャワーの雨がタイルを打つ音を聞きながらディープキスをしていると、保健所に飼い犬を差し出すように無理やり預けてきた野々花の泣きべそ顔が瞼の裏にちらつく。
『野々花ちゃん、あの後は大好きなトトロを見てご機嫌でした。泣き疲れたみたいで、よく眠っています』
あの後、ゆうちゃんから送信された保育園の途中経過メールには、さっきの恐慌状態が嘘のように安らかな寝顔が写っていた。
でも、明らかに野々花に間違いないその写メも、あたしを安心させるためのゆうちゃんの言葉も、ニセモノに思えた。泣いてしがみついてきた子どもを置いて見も知らぬ男と金のために交わっている罪悪感が、ちりちり胸を焼く。
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