フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第6話>
<第6回目>
一緒にシャワーを浴び、片づけがあるからと先にバスルームを出て、素早く携帯を確認する。
新着受信一件はお店からの指示メール、ドライバー交代で冨永さん。その名前を見るだけで心がふんわり軽くなって、口もとがだらりとしそうになる。
「今日はありがとうございまーす」
お店の空名刺に“はるか”と源氏名を書き込み、適当な一言を添え、最後まできちんと猫撫で声と、我ながらやり過ぎな笑顔を作って客に渡す。
部屋を泊まりで取っていてこの後すぐ寝るという客とはドアの前でお別れで、一緒にエレベーターに乗らなくていい、仕事の時間をほんの数十秒でもでも短くできると喜んだのは一瞬。
最後の最後で、また絶対来てねーと贅肉だらけの体にぎゅうぎゅう抱き付かれ、何を食べたんだか知らないが、ウンコとゲロと腐った魚みたいな臭いを発する口で強烈なキスをされた。オエッ。
エレベーターを降り一歩外に出れば、そこは黒服とサラリーマンと玄人の雰囲気をまとった女たちが行きかう風俗街。
もう3時を過ぎているけれど、金曜日の夜だからネオンの光は生き生きとしていて、人通りが多い。
夜はまだまだ冷えるものの、1カ月前よりはずいぶん柔らかくなった風が頬を撫でる。有名な風俗用ホテルから出てきたあたしに突き刺さる、サラリーマン集団の露骨な視線がうざい。
5年前と変わらない冨永さんのワゴンは、道の端に停められていて、まだあたしをじろじろ見ているサラリーマンたちを睨みつけながら冨永さんが出てくる。
普段は穏やかで滅多に声を荒げることがない人だけれど、細い目は威嚇するとぴりぴり空気を焼きそうに鋭い。
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