フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第18話>
<第18回目>
「はるかさん、十分若いじゃないですか」
「この業界じゃあ若くないってこと」
「もっと歳いってても続けてる人、たくさんいますよ。でもまぁ、そうですね。年齢上がれば上がるほど、ハードなサービスの店に行かないと稼げなくなるし、それぐらいのうちから次を考えておいたほうがいいんですよね」
そんなことを言いながら冨永さんがダウンジャケットのポケットからパンくずを取り出して、たちまちカモメが群がってくる。
冨永さんは「動物用」と称して、パンを食べた時は必ずひときれかふたきれ、ポケットに入れておくらしい。ちゃんとパンくず用の場所が決まっていて、左下の外ポケット。
「俺も、辞めますか」
カモメたちのみぃみぃという声にかき消されそうになりながら、でもはっきり聞こえた。
「俺もこの業界長いんでね。なんだかんだ、もう10年います」
一羽が冨永さんの手づからパンくずを取っていく。冨永さんの手はグローブのように大きくてごつごつしていて、色が黒い。
「冨永さんって今いくつなの?」
「32歳」
「あたしより5歳も上だ。ほんとにそろそろ、計画的に生きなきゃいけない歳じゃん」
ついこないだまで、まったく何の計画も目標もなく、やけっぱちに生きていた人が何を言ってるんだろうと思う。
冨永さんは素直に頷いた。
「そもそもなんでこの業界入ったの?」
「もともと中古車屋さんで仕事してたんですけどね。友だちから誘われて、稼げる仕事があるって言われて。入ってみたらたしかに稼げたし、いつのまにか中古車屋さん辞めて、ここ一本」
「なんか適当だね」
「適当なんですよね」
でも、適当にしか生きられない理由もわかる。
親に愛されて育ってないせいか、あたしは自己肯定感が薄い。自分のことを大切にできない。
もしエイズとか恐ろしい性病になっちゃっても仕方ない、それが自分の歩んできた人生じゃんって思うことにしてるから、平気で客と生でする。それだけじゃない。ドラッグ、万引き、暴力、その他いろいろの犯罪行為、ひとかけらの罪悪感もなく手を染めてきた。警察に捕まったって泣く人もいないんだから、って。
裸で外を走らされたり真冬のベランダに閉じ込められた冨永さんは、きっとあたしとすごく似ている。
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