フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第20話>
<第20回目>
「あたしはネイリストになるけど。冨永さんは、この仕事の次って何か考えてるの?」
「これも他の女の子には言ってないんですが……。俺、脚本を書いてます」
「えっ? まさか、いつもノートに書いてるのって」
「それです。あれは、下書きですけど。ちゃんと清書はパソコンでやるんで。あと小説も書いたことあります」
「何それ? 冨永さん、小説家志望!? じゃなくて、脚本家!?」
冨永さんが小さく照れ笑いをする。くくく、とかふふふ、って感じの。
あたしたちの頭の上でカモメが大きく旋回していた。
「まぁ、そういうことになりますね。でも、さすがにそれじゃ食べていけないだろうから、昼の仕事しますよ。また中古車屋さんやってもいいし。働きながら地道に書きます」
「あんまり長くいるとこじゃないもんね、この業界」
「俺もそう思ってます。だから凛さんと一緒に抜けたいんです」
「ねぇ、いい加減敬語やめてよ。あと、さんもいらない」
冨永さんがまた携帯灰皿の上で煙草をとんとんとやる。
あたしたちを取り囲んでみぃみぃ、猫みたいに鳴くカモメたち。
2人、何か素敵なことが始まる前の心地よい沈黙にしばらく身を任せた後、冨永さんが溜めこんでいたものを放つように言った。
「凛が好き」
「あたしも好き」
やっとちゃんと伝えられた。伝えてくれた。
桜の蕾がまだ固くて、梅の蕾は少しずつほころび始める頃、あたしたちは付き合い始めた。
付き合っていたのは2カ月にも満たない間で、でもその短い時間はあっという間なのに濃密で、今でも思い出すだけでほくほくと、ともすれば相変わらずやけっぱちになってしまうあたしの心を温める。
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