フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第22話>
<第22回目>
デートはだいたい一週間に二度、交互にお互いの行きたい場所に行った。
あたしが映画を観たいと言えば、その次は冨永さんに連れられ動物園に行き、その次はあたしのショッピングに付き合ってもらって、その次は冨永さんの提案で水族館に行くって感じ。
なぜか冨永さんが行きたがるのは、動物園とか水族館とかばかりで、あたしたちはすぐに東京から車で行ける範囲内の動物園と水族館をクリアしてしまった。
「冨永さんはなんでそんなに動物が好きなの?」
「うーん。動物が好きっていうより、人間があんまり好きじゃないのかもしれないな」
水族館のクラゲの水槽の前でたゆたうクラゲを見つめながら言うと、冨永さんはまったく悲壮感とか愚痴っぽさとかを込めずに言った。クラゲは七夕飾りを思わせる何十本もの触手を動かし、どこを目指すわけでもなく暗い水をかいている。
「人間嫌いなの? あんまりそういうふうに見えない」
「そりゃ、いい人もいるし、話してて面白い奴もいるよ。でも嘘つく奴とか自分のことしか考えられない奴もいっぱい見てきたから」
「そっか。じゃあ、人間があんまり好きじゃないんだったら、あたしのことも好きじゃないね」
「なんでそんな話になるんだよ」
ちょっと怒った声になって繋いだ手に力が込められる。笑っていると、冨永さんがひゅっと耳に口を寄せてくる。ぬるい息が頬を撫でる。
「凛のことは好きだよ。凛が人間でも、動物でも、クラゲでも好きだよ」
「あたしがクラゲだったら冨永さんもクラゲなの?」
「俺はクラゲじゃないだろ。どっちかっていったら、イカじゃない?」
「意味わかんない」
しっかり手を繋ぎ合ってこんな会話をしながら、洞窟みたいに暗い水槽の間を進んでいくあたしたちは、見事なバカップルに見えただろう。
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