フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第30話>
<第30回目>
冨永さんが選んだホテルはなぜか歌舞伎町で、半地下の駐車場に停めた後フロントへの階段を上った。
平日の朝で、ちょうど朝の部のフリータイムが始まったばかりで、部屋は空いていた。フロントで鍵を受け取りエレベーターに向かう時、腕を組んでピーナッツみたいにくっついてる大学生風のカップルとすれ違った。
泣き腫らした目の女と、ボロボロのダウンジャケットとごつい体がいかにもアンダーグラウンドの人間らしい冨永さんとの組み合わせは、じろじろ遠慮のない視線を受けた。
ボロい外観とお手頃な価格設定に釣り合って、部屋の中はソープのことをトルコ風呂って呼んでた時代にタイムスリップしたような、昭和の香りに溢れていた。金色の蔦みたいな模様が描かれた壁紙、絨毯の上の怪しげなシミ、ベッドはなぜか丸い回転ベッド、その周りは見事な鏡張り。
冨永さんは入るなり、ここを選んだことに後悔の意を表すようなまばたきを2、3度繰り返した後、冷蔵庫の上のコーヒーメーカーとティーカップに歩み寄った。
「とりあえず何か、淹れるよ。コーヒーでいい? あ、お茶もある。ティーバッグの」
「そんなのいい」
ティーバッグを物色する冨永さんの両腕を捕えて、強引にあたしのほうを向かせ、正面から向き合う形になる。158cmのあたしより20cm以上高いところにある冨永さんの瞳が、憐れむように揺れていた。
そのことがたまらなく、腹立たしかった。
着ていたピーコートを乱暴に床に落とし、化粧が崩れるのも構わずタートルネックを頭から引き抜いて、キャミソール一枚になった。それも脱ごうとしたところで冨永さんの手があたしの左手首を掴む。
「落ち着け、凛」
「落ち着いていられるわけないでしょっ!!」
冨永さんの手を振り払いキャミソールもするっと脱ぐ。大きくはないけれど、よく客に形がいいと褒められるCカップの胸が、水色のブラジャーに包まれたまま体の正面でぷるんと揺れる。
冨永さんは何か恐ろしいものを見る目でそれを見つめていた。
大きな手をひっ掴み、左胸に持っていく。ブラジャーからはみ出した肉にじかに感じる、ざらついた肌の感触と想像以上に熱い体温。
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