ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第36話>
<第36回>
アフター自体は珍しいことではなく、柊太郎も何度か新人好きな客に誘ってもらい、晩飯をご馳走してもらったことがある。てまりも由井が来たときは、よくアフター料金を払ってもらい、終演後も一緒にいるようだ。
アフターでダンサーと客が何をするかは、基本的に団体側でも店でも関与しないことになっている。
つまり、柊太郎のように食事だけして別れるのも自由だし、てまりのように「恋愛」をするのも自由だ。ダンサーによっては、それなりの交渉をした上でそれなりの行為に及ぶ者もいるようだ。
柾が伊藤とアフターをする。
ここまでしていたら、アフターでやることはもはや決まっているようなものだと思った。
いやだ。行かないでほしい。いや、行ったとしても「そんなこと」はしないでほしい。俺にしたようなことをさせないでほしい。それ以上のことをしないでほしい。
子供のように叫んで柾に縋りたかったが、柊太郎の理性はそんなことを許すほどやわではなかった。ただ俯いて、グラスを持っていないほうの手をぐっと握りしめることぐらいしかできない。
柾と伊藤は相変わらず唇を寄せたり、頬を擦りつけたりしながら戯れ合っていた。柊太郎はそんな二人には構わないふりをしてじっと舞台を眺めていたが、心の内は今夜柾と伊藤がするであろうことの想像ではちきれそうだった。
やがてダンサーは一人、また一人と自分たちのダンスを終わらせていき、柾の出番が近づいてきた。
スタッフが丁重にノックをしてから部屋に入ってきて、柾に「そろそろです」と耳打ちする。
柾はソファから立ち上がり、伊藤に軽く頭を下げた。
「伊藤さん、申し訳ありません。俺もそろそろ……」
「あぁ、行っておいで」
伊藤は座ったまま、柾を仰ぐ。
柊太郎が、自分はどうするべきかと柾に目で尋ねると、柾は「お前も行くぞ」と出入り口のドアを指した。
立ち上がり、柾と同じように伊藤に頭を下げる。その角度は、柾よりも少し深めにした。
VIPルームから一階に続く階段は、柾が先に降りた。
「柾さん」
柊太郎はその後頭部に声を掛ける。
「何だ?」
「…………その」
「何だよ」
柾の声がわずかにいらつきを帯びたのがわかった。
「……何でも、ないです」
最初から質問なんてしない、いや、できないとわかっていたのに、なぜ呼びかけてしまったのだろう。
聞くだけ無駄だと思ったし、いちいち聞いたら怒られると思った。
アフターで、伊藤さんとさっきの続きをやるんですか、なんて。
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