ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第39話>
<第39話>
出番に間に合うように帰ってくれば何をしていてもいいとスマートフォンに柾からメールが届いたのは、店を出てから五分ほど経った後だった。
これ以上柾の怒りに火を注ぎたくなかったから、すぐに「わかりました」と返事をする。迷惑を掛けてしまったことへの謝罪ももちろん入れた。
柊太郎は特に行くあてもなく新宿をうろついた。時刻は午後五時を回ろうとしている。
新宿は相変わらず雑然としていた。スーツ姿のサラリーマン。学校帰りらしい、制服姿の高校生。少し早い同伴なのか、派手な服とメイクの水商売風の女性と中年男性が腕を組んでいる。髪を金髪に染めてギターを背負った男。乳母車を押す若い母親。民族衣装を纏ったアラブ系の女性。人間の博覧会のようだ。
ふと、雑踏の向こうに見知った顔を見つけた。バスケ部にいた同級生だ。何人かで連れ立って歩いている。柊太郎がいた頃と同じスケジュールであれば今日は練習の予定だが、スケジュールが変わったのか、それともサボっているのか。
柊太郎は横道に逸れた。顔を合わせたくなかった。
こんなところで何してるんだ、そう尋ねられるのが怖い。そこから、今、メンズストリップをしていることに話が発展していきそうなことも。必要最小限の時間、つまり授業の時間しかいない大学では逆に顔を合わせることはあまりなかったし、話題も大学に関することで済ませられる。だが、ここではそうはいかないだろう。
メンズストリップをしていることを知られるのは、恥ずかしかった。
踊ることに誇りを持っていて、練習にもバスケ以上に情熱を燃やしている。だがその周辺を形づくるものに、どうしても引け目を感じてしまう。柾に惹きつけられてメンズストリップをしていること。その柾が……柾ほどの実力を持っていてさえ、客に媚びや体を売っていること。
あのときバスケ部をやめなければ、あいつらの側にいれば、こんな思いはせずに済んだ。知らなくて済んだ。たぶん一生無縁のものだった。
だけどもう引き返せない。柾の背中を必死で追ううちに、自分の軸は今いるところにできてしまった。その軸を壊して向こう側に戻ることはもうできない。柾の毒が体の最奥にまで回ってしまって、その毒なしでは生きていけない体になった。
あの日、柾のポスターを偶然見かけた一瞬がなければ、今ごろは目的もなく何となくぼんやりと大学生活を送っていただろう。人生は濃厚で意味のある一瞬があればそれだけで展開する。
結局、目的もなく西新宿のほうまで歩いただけで、柊太郎は開演前に店に戻った。
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