泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第21話>
<第21話>
すみれさんが充電器に繋がったまま床で鳴っているわたしの携帯を指差す。颯太くんかも、という予感でさっきまですべての骨を失ったようにぐったりしていた体が、すんなり動く。ディスプレイに表示された『颯太くん』の文字を見た途端、全身に漂っていただるさがいっぺんに抜けた。
『もしもし。今、大丈夫か?』
「大丈夫だよー。どうしたのー?」
『うん、今ちょっと実家から電話あって。なんか、オヤジが交通事故起こしたらしくてさ』
「ええっ! たいへーん!!」
通話音量は『普通』に設定してあるからそんなに大きくないし、颯太くんの声が漏れてるわけはないんだけど、彼氏と話してるってバレバレなんだろう。雨音さんとすみれさんの顔が見る間に不機嫌になっていく。この人たちは彼氏がホストをやっているってだけで頭ごなしに反対する、狭い心の持ち主だ。自分たちだって風俗嬢のくせに。
『でも、金でなんとかなりそうなんだ。示談金ってやつ』
「そうなの? よかったー」
『それが良くもないんだよ……うち、こんな状態だからさ。俺の稼ぎだけじゃ足りなくて』
「わかった、わたしが援助する! いくらあればいいの?」
『さすが、お前は話が早いな。助かるよ。今月末までに、50万欲しい』
「今月末までに、50万ね。それぐらいならなんとかなるよ、出勤増やせば。わたし、人気者だもん!」
雨音さんとすみれさんの眉間の皴がますます深くなった。雨音さんなんてあからさまにはあぁ、とため息をつく。嫌な感じ。
『ごめんな、いつもいつも、迷惑かけてばっかで』
「ううん、大丈夫。全然迷惑なんかじゃない! じゃあ、ここ待機室だから、もう切るね。後でまた電話する」
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