泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第26話>

2015-01-16 20:00 配信 / 閲覧回数 : 926 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


JESSIE

<第26話>

 

「あの、わたし、お金必要なんですけど」

 

今は休みたくない。今月末までに50万、必要なんだから。朝倉さんが不審そうに眉根を寄せる。

 

「生休じゃしょうがないじゃないか」

 

「そう……ですよね……」

 

これ以上ねばったら不自然だ。生理も来てないのに生休を使ってるなんて、朝倉さんにバレたら、まずい。仕方なく明日から生休を取ることにして、荷物をまとめて待機室を出る。いつもよりずっと早い帰宅。駅前まで送ってくれる車の中から外を見ると、濃いオレンジ色の西日が町をすっぽり包んでいる。

 

夕方にじっくり外を見るのなんて久しぶりで、いつの間にかだいぶ日が短くなっていた。風俗の仕事をしていると、どうしても月日の流れに鈍感になる。

 

電車を使って帰るのも久しぶりだった。数時間前に歩いたマンションから駅までの道を午前中とは逆にたどりながら、月末までに颯太くんに渡さなきゃいけない50万のことを考える。生休が明けたら週7日、オープン~ラストのフル出勤だ。あーあ、生休さえなければなぁ。いや、生理が来てないなら、たとえば他のお店で働いたっていいんだよね。

 

でもうちの店、同業との掛け持ちNGだからなー。朝倉さん、ルール違反には厳しいし。吉原から離れた場所、たとえば渋谷とかだったらなんとかなるかな……。

 

思考を巡らせていると正面から歩いてきた女子高生2人組とすれ違う。大声でしゃべってるから、自然と会話が耳に入ってきた。

 

「今月さーまだ生理来てないんだけどー。ヤバくなーい?」

 

「ヤバくないっつーか、ヤバいっしょー! 何それ、そんな明るくカミングアウトとか、やめてー!」

 

ちっとも深刻じゃない笑い声が足を止める。後ろを走っていた自転車が、歩道の真ん中で突っ立っているわたしを迷惑そうに追い抜いていった。

 

そういえば最後に生理が来たの、いつだっけ……?

 




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