泡のように消えていく…第三章~Amane~<第10話>
<第10話>
うちの店では永久ナンバーワン嬢の沙和さんが時々、無料で研修会をやってくれる。そんな機会、どこにでもあるものじゃない。
前の店でもその前の店でも先輩嬢から教わる機会はあったけれど、それは教わる女の子が先生となる女の子に、その時間分の給料を支払わなきゃいけないシステムで、つまり技術はただでは手に入らない。それを、沙和さんの厚意でただにしてもらってる。
そのありがたみを実感できず、わたしにはそういうの必要ない、なんて抜かして、沙和さん直々に誘われるたび断るんだ、この女は。
ムカつかないわけがない。
睨み続けていると、一旦は止まっていたうららの涙が再び溢れ出し、化粧っけのない赤らんだ頬を濡らす。
悔しいことにこいつはなかなかキレイで、泣き姿も様になる。女の涙は武器だとはよく言ったもので、男がこれを見たら思わず抱き寄せたくなったりするんだろう。
しかしあたしは男じゃない。
「泣けばいいとか思ってるわけ? どんだけ甘いんだよ」
「やめなさいよ」
男じゃないけど、すみれがうららを抱き寄せた。あたしを見る目に怒りが宿っている。
「ホントのこと言って何が悪いのよ」
「ホントのことなら何を言ってもいいわけじゃあないでしょう。今雨音さんが言ったことはうららちゃん自身が一番よくわかっていることで、雨音さんが言うべきことじゃないと思う。うららちゃんだって反省して、後悔してるはずだから。
今大事なのはこの子を責めることじゃなくて、これからどうすればいいか、考えることじゃないの?」
理路整然とした正論が飛び出すあたり、こんな仕事をしている割にはこの人、学生時代に勉強はできたほうなのかもしれない。
頭の片一方では冷静にそんなことを考えながら、もう片方ではまた、イラつきの針がびいぃーん、と限界まで上がった。
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