泡のように消えていく…第三章~Amane~<第12話>
<第12話>
このクラブが絶頂を迎えるのは、金曜日の25時過ぎ。まだ23時半を回ったところだけどホールには続々人が集まり始め、あっちこっちで女に声をかけまくるナンパ男や、そんな男を品定めする女たちの姿が目立つ。ピークタイムはまだとあって、音楽はさほど盛り上がってはおらず、音量もやや控えめ。
1階フロアを見渡せる2階のテーブル席がいつもの待ち合わせスポットで、光に群がる蛾のようにフラフラ寄ってくるナンパ男を睨みつけてかわしながら待っていたら、煙草の箱があっという間に空になった。
エスをやめた代わりに、すっかり煙草のジャンキーになってしまっている。
「うわぁ〜、雨音ぇ〜! 久しぶりぃ」
あたしを見つけたひなつが飛びついてきて、ワンピースの襟口からこぼれんばかりの胸が、ぎゅうぎゅう肩口に押し付けられる。トイプードルのように巻きに巻きまくった茶髪に、姫系というんだろうか、ピンクの花柄のど派手なミニワンピ。こういう服の趣味はどうも理解できない。
「遅い。そして、そんなに引っ付かれたら、ウザい」
「んもー、雨音ってば相変わらず! でも、やっぱ可愛いぃー」
あたしの毒舌にまったくダメージを受けず、15秒ごとに「可愛いぃー」と叫ばずにはいられないひなつは、うららの上を行くバカで、そこまで徹底的にバカだとなぜかイラつかない。10代の頃にシンナーをやってたらしいから、そのおかげで脳みそが崩壊しているんだろう。
どこにでもあり、吸引目的で持っていなければ違法でもなく、子どもでも手に入るシンナー。実は最強のドラッグなのだ。
「久しぶりだね」
ひなつの後ろから七華がひょっこり顔を出す。
こちらはひなつとは対照的の、南米あたりの血が入っていてもおかしくないくっきり濃い顔立ちが特徴の美人で、身長170cm超えのグラマー。黒を基調にした正当派のクラブ系ファッションがよく似合う、外人ばりの体型だ。
小柄で年中フリフリ服のひなつと並ぶと、男女のカップルに見えないこともない。
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