泡のように消えていく…第三章~Amane~<第21話>
<第21回>
「お前、またエルやっただろ」
飛鳥があたしの肩の下に手を入れ、体を起こしてくれる。毎日太陽の下で肉体を酷使して働いてるから、飛鳥の腕は健康な筋肉がみっしり詰まっていて、逞しい。
「ったく、しょーがねーな。エスやめたからって、エルやってちゃ意味ねーだろーが」
「エスとエルじゃ全然違う」
「ジャンキーの言い訳はいいよ」
ばっさり切り捨て、吐き気でふらふらになっているあたしの体を引きずるようにして、飛鳥は階段を上がる。
飛鳥は10代の頃はかなりヤンチャしていたというけれど、中学の頃にガスを少し吸っていたくらいで、ドラッグ関係はクリーンだ。生まれた家も普通の家庭で今では親とも仲良いみたいだし、風俗の世界で出会ったにしろあたしとはまったく違ってごく普通の人間で、恵まれた育ちの男の子特有の安心感みたいなものを備えている。
最初はそこに惹かれたんだけど、一緒にいるうちにその安心感がウザくなっていった。
「もう少しだから、頑張って」
吐き気のビッグウェーブをこらえ口を押え、飛鳥に何度も励まされながら、なんとか玄関までたどり着いた。ショルダーバッグを預け、キーケースを探してもらう。片腕であたしを支えたまま、器用に鍵を開けてくれる飛鳥。家の中に入った途端、留守にしていた家特有のこもった空気のせいで、胃の中のものが一気に喉から突き上げてくる。
「もう少しだから!!」
そのまま玄関先で戻しそうなあたしを、飛鳥は間一髪のところでトイレまで連れていく。背中をさすられながら、便器に向かって吐けるだけ吐いた。といっても薄黄色の水っぽいものばかりで、固形物が全然ない。吐き終わると猛烈にお腹が空いていることに気づく。食欲なんてないけれど。
「お前、自分のこともっと大切にしろよ」
流しに連れて行って口をゆすがせ、ベッドに横たえてくれた飛鳥が枕もとで言う。心からあたしを思い、心配してくれる2つの目。ウザすぎて胸がきしむ。
「飛鳥にはわかんないよ」
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。