泡のように消えていく…第三章~Amane~<第29話>
<第29回>
「あたしは、とにかくほっといてほしいってタイプだから。ああいうお節介、見ててすごくイラつくんですよ。他人とベタベタ関わろうって気持ちがウザくて」
「雨音さんだって、すみれさんと本気で関わってたじゃない? じゃなかったらあんな、つかみ合いのケンカなんてしないと思うけど」
「……自分を抑えられなかっただけです。未だに子どもなんですよ」
他人とまともに関わるなんてあたしには必要のないことだし、すみれにしろ飛鳥にしろ、真正面からドンとぶつかろうとする人間がウザい。
でも、心の底では欲してるのかもしれない。
あたしに向かって伸ばされる、一筋の光のような手を。それを素直に受け入れられないから、ウザいんだ。
「少なくともうららちゃんはすみれさんに助けてもらえて、嬉しかったんじゃないかな」
「あたし、あいつも嫌いです。いくらなんでもバカ過ぎる」
「あの子はそんなにバカじゃないわ。バカなふりをしてるだけ」
「沙和さん、ほんとに一万円もカンパしたんですか?」
「したわよ。わたしもうららちゃんのことは応援したいもの」
白い額にいっぱいに連なった汗の玉が流れ落ち、沙和さんがふう、と小さくため息をついて手の甲で汗を拭った。
きつい労働でなめらかな頬が健康的に赤らんでいる。
この人、いったいいくつなんだろう。あたしより年上だと思うけれど、まったく年齢を感じさせない。
沙和さんと話しているといつも、なんでこんなに大人で素敵な人がソープ嬢なんかやってるのかって、不思議になる。
風俗で働いてる時点でみんな似たようなもの、ちゃんと生きられてなんかない。いつかすみれたちに言ったあたしの主張は間違ってないと信じてるが、沙和さんにだけは当てはまらないのだ。
もちろん沙和さんにだって、ソープで働かなきゃいけないのっぴきならない理由があるんだろう。でも自分の影の部分は一切見せず、表面だけでも完璧に明るく振る舞って、2本の足でしっかり立っている。だからあたしは沙和さんを尊敬している。人を尊敬することなんて滅多にないけれど、沙和さんだけは特別だ。
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