泡のように消えていく…第三章~Amane~<第34話>
<第34話>
寒い時期の平日の午後は、店がおそろしく暇になる。
週末でもないのになぜか出勤の女の子ばかりが多い日で、ごみごみとした待機室は濃厚な二酸化炭素のせいかなんとなく息苦しい。テレビもまったく面白くなく、みんなため息を喉に溜めこんだ顔で携帯をいじるか雑誌を読むかしている。あたしも画面上から落ちてくる原色のブロックを並べて消す携帯ゲームに無理やり集中しながら、早くも帰りたい気分になっていた。
昨日は一本だけ。今日はお茶かも。
エスをやめた今、お金のために風俗をやっているわけじゃなく、今さら他で働く気になれなくてだらだら業界に居座り続けているだけのあたしでも、稼げないのは辛いものだ。
倦怠感に引き伸ばされた退屈な時間は未来永劫続きそうで、自分は何のために生きているのか、中2病レベルの青臭い問いが胸を過る。
「きゃあぁっ」
退屈な時間を一瞬確かに止める、黄色い悲鳴。
さすがに驚いて操作ミス、ゲームオーバーの文字があたしを嘲笑うように表示される。舌打ちをこらえながら振り返ると、ロッカーの前ですみれが青ざめていた。
その足もとにはひっくり返った私物籠とばらばらになった荷物。イソジンとか海綿とかお菓子の間に、ひしゃげた6本の足をお腹に抱き込むようにして、黒光りする物体が転がっている。
「あーれー。すみれさん、どうしたんですかぁー?」
わざとらしい物言いにニヤけた顔。自分が犯人ですってバレバレの言い方で新人のみひろが言った。批難の視線がみひろに向けられないのは、誰一人としてすみれに同情してないからだろう。
それにしても私物籠にゴキブリの死骸を入れておくとか、やり口がベタ過ぎだ。
すみれはみひろの言葉を唇を噛んで無視し、黙って床に散らばった荷物を片づける。小さく震えている背中を見て、何人かクスクス笑いをこらえたり、隣の子とひそひそ声で話したりしている。すみれの悲鳴は暇な待機室の空気に暗い刺激を与えるだけの効果はあったらしく、しばらくの間みひろを始め、みんなの顔が明るく歪んでいた。
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