泡のように消えていく…第三章~Amane~<第35話>
<第35話>
すみれは最近、いじめに遭っていた。
うららのために誰彼構わずカンパなんて集めようとするからだ、あたしでなくても露骨ないい人ぶりっこに反感を覚える人はいたわけで、自業自得。ただでさえ、暇な時期はいじめが起こりやすい。
別に大して可哀想とも思わないが、ただ、こんなことをして喜んでいる奴らはハタから見ていても本当にイラつく。すごくくだらないしバカだと思うし、その浅はかさにじわじわ怒りを覚えるのだ。
それにしても先輩ならともかく、後から入ってきた新人にいじめられるすみれって。何か弱みでも握られてるのかもしれない。
手のひらの上で携帯が震える。着信音量を最大に設定してあるから隣の座椅子に座っていた子がびっくりした顔でこっちを見て、ごめん、と小さく謝ってから発話ボタンを押した。澪輝からだった。
「もしもし」
『もしもし。今仕事?』
「待機室だよ。ちょっとだけなら話せる」
ひなつと七華には秘密にしてあるけれど、澪輝にはソープで働いていることを話してある。麻薬の売人ならこの業界の住人なんて別に珍しくもなんともないはずで、実はソープ嬢なんだけどって知り合いたての頃に打ち明けても、ふーん、と気のない返事が返ってきただけだった。
それぐらい、澪輝はあたし自身に興味がないんだろう。
『雨音、今夜時間ある?』
「22時までここいるよ。なんで?」
『実はいいネタが入ってさ』
澪輝が何を言わんとしているのかわかって、飛鳥の顔が瞼の裏に現れる。
いつものようにあたしを心から心配する、責めているのにも似た目で見つめられる。
そんな幻影を追い払うために、言った。
「いいよ、どこ行けばいいの?」
なんでもっと早く思いつかなかったんだろう。いっそ飛鳥を裏切ってしまえば、あの目に見つめられることは永遠になくなる。それは飛鳥があたしの前から消えることとイコールだけど、寂しいなんて思う必要ない。
もともと、ずっと一人ぼっちだったのだ。
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