泡のように消えていく…第三章~Amane~<第38話>
<第38話>
手を伸ばしかける。
頭の裏に飛鳥の顔が過る。
あたしが思い出す飛鳥は、いつも困ったように、少し泣きそうに、眉毛を八の字にしている。あたしを心配して責めていて、あたしに懇願している顔。
お願いだから自分を大切にしてくれと。
「ごめん、やっぱ無理」
え、と澪輝が言った気がしたけど、素早く背を向けたからよく聞こえなかった。
自分に迷いが忍び込む余地を与えないように一気に走る。部屋を出て非常階段を駆け下り、マンションを出た。駅がどちらの方角がわからないままめちゃくちゃに走り、大通りに出て最初に見つけたタクシーに向かって手を上げる。
「お客さん、大丈夫ですか」
いつ以来かわからないほど必死で走ったあたしの肺はいつまでも暴れていて、ぜいぜい息をしているあたしに運転手が言う。
大丈夫です、と返して大きく呼吸をした。新鮮な空気を思いっきり吸い込んだ体の中は、エスを求める衝動から解放されていた。
あそこはまだ濡れてて気持ち悪いけど。タクシーを降りたら、すぐトイレに入ってあそこを拭かなきゃ。
あたしはもう澪輝ともひなつたちとも関わらないし、クラブに行くのもやめるだろう。
飛鳥、負けたよ、あんたに。
エスをやめる、2年前に決意したのは決意とも呼べないような薄っぺらい意志だったんだ、今思えば。地獄のような痛みを味わって、そうせざるを得ないと思ってしまっただけで。そこには自分を変えるのに必要な理由が欠けていた。
でも今、ちゃんと決意した。あたしは変わろう。
飛鳥と、飛鳥が愛する自分のために。
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