泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第21話>
<第21話>
何も今生の別れってわけじゃない、すぐまた会える。メールだって電話だってある。
わかってるけど、さよならする時はいつも寂しさで死んでしまいそうになる。
どうして門限があるんだろう? なんでわたしはいい子を演じ続けてるんだろう? 桃花やリミみたいに、何日も帰ってこなくてもなんにも言わない親だったらいいのに……。
実現しようのないことばっかり考えては、絡めた手を離せない。そんなわたしをハルくんは優しく諭す。
「そろそろ行かないと。園香の親、心配するよ」
「……いいよ、心配かけたって。それよりもう少し、ハルくんといたい」
痩せた背中に回した手にぎゅっと力を込める。
わたしにとって帰る場所はもう住み慣れた家じゃなくて、ハルくんの腕の中なのに。
自分がまだ未成年で高校生で、親の顔色を窺わなきゃいけない身だってことが歯がゆい。
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。園香はN女子のお嬢様なんだから」
「でも……」
「大丈夫。俺はどれだけ離れてたって園香が好きだよ。園香のことばっかり考えてるよ」
優しく微笑みかけられおでこにキスをさせられ、ようやくわたしはハルくんの手を放し、立ち上がることができる。
それでもやっぱり離れがたくて、もうクツも履いてカバンも持ったのに、玄関先でハルくんにくっついたらまた、別れるのが辛くなった。強く抱きしめられ頭をよしよしされ、ほら帰らなきゃだめだろと優しく背中を押されて、ようやくドアを開ける。
一人ぼっちのエレベーターが動き出す。一瞬、ふわりと足もとから宙に浮く感覚。
今日は火曜日、次に会えるのは日曜日。あぁ、やっぱり長い。長すぎてため息が出そう。
いや、落ち込んでちゃだめだ。会えない時間が愛を育てるっていうじゃない? 次こそデートクラブで、しっかり稼ごう。どんなに気持ち悪いおじさんだって、ハルくんのためだと思って全力で接客しよう。
マンションのエントランスで、すれ違いざまに女の人に挨拶された。住人と間違えられたのだと気づいて、慌てて会釈を返す。
今しがたわたしが下りたばかりのエレベーターに乗り込んだその人の横顔を、ちらりと見やる。
年はたぶんわたしより少し年上、19歳とか20歳とか。ワンレングスのハチミツ色の髪もミニスカートからにょっきり伸びた形のいい足も、まばたきしたら音がしそうに長い睫毛も、きれいだった。
あんな人がハルくんと同じマンションに住んでるなんて、ちょっと心配になる。ハルくんに限って浮気ってことはないだろうけれど。
それにしても、不思議だ。
ああいう人こそ相応しいハルくんが、どうしてわたしを選んでくれたのか。わたしなんかのどこがよかったのか。
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