泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第21話>

2015-04-09 20:00 配信 / 閲覧回数 : 915 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第21話>

 

何も今生の別れってわけじゃない、すぐまた会える。メールだって電話だってある。

 

わかってるけど、さよならする時はいつも寂しさで死んでしまいそうになる。

 

どうして門限があるんだろう? なんでわたしはいい子を演じ続けてるんだろう? 桃花やリミみたいに、何日も帰ってこなくてもなんにも言わない親だったらいいのに……。

 

実現しようのないことばっかり考えては、絡めた手を離せない。そんなわたしをハルくんは優しく諭す。

 

「そろそろ行かないと。園香の親、心配するよ」

 

「……いいよ、心配かけたって。それよりもう少し、ハルくんといたい」

 

痩せた背中に回した手にぎゅっと力を込める。

 

わたしにとって帰る場所はもう住み慣れた家じゃなくて、ハルくんの腕の中なのに。

 

自分がまだ未成年で高校生で、親の顔色を窺わなきゃいけない身だってことが歯がゆい。

 

「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。園香はN女子のお嬢様なんだから」

 

「でも……」

 

「大丈夫。俺はどれだけ離れてたって園香が好きだよ。園香のことばっかり考えてるよ」

 

優しく微笑みかけられおでこにキスをさせられ、ようやくわたしはハルくんの手を放し、立ち上がることができる。

 

それでもやっぱり離れがたくて、もうクツも履いてカバンも持ったのに、玄関先でハルくんにくっついたらまた、別れるのが辛くなった。強く抱きしめられ頭をよしよしされ、ほら帰らなきゃだめだろと優しく背中を押されて、ようやくドアを開ける。

 

一人ぼっちのエレベーターが動き出す。一瞬、ふわりと足もとから宙に浮く感覚。

 

今日は火曜日、次に会えるのは日曜日。あぁ、やっぱり長い。長すぎてため息が出そう。

 

いや、落ち込んでちゃだめだ。会えない時間が愛を育てるっていうじゃない? 次こそデートクラブで、しっかり稼ごう。どんなに気持ち悪いおじさんだって、ハルくんのためだと思って全力で接客しよう。

 

マンションのエントランスで、すれ違いざまに女の人に挨拶された。住人と間違えられたのだと気づいて、慌てて会釈を返す。

 

今しがたわたしが下りたばかりのエレベーターに乗り込んだその人の横顔を、ちらりと見やる。

 

年はたぶんわたしより少し年上、19歳とか20歳とか。ワンレングスのハチミツ色の髪もミニスカートからにょっきり伸びた形のいい足も、まばたきしたら音がしそうに長い睫毛も、きれいだった。

 

あんな人がハルくんと同じマンションに住んでるなんて、ちょっと心配になる。ハルくんに限って浮気ってことはないだろうけれど。

 

それにしても、不思議だ。

 

ああいう人こそ相応しいハルくんが、どうしてわたしを選んでくれたのか。わたしなんかのどこがよかったのか。

 

 

 




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